コメディ・ライト小説(新)
- 超千里眼 ( No.9 )
- 日時: 2017/03/31 13:29
- 名前: ラッテ (ID: 5YaOdPeQ)
Re;9 視
《待っていた》
この言葉は、奶斗を大きく困惑させた。
世界がリセットされる時、記憶がそのまま保存されるのは、能力保持者の奶斗一人のみ。
それ以外の人間は愚か、すべての生命は文字通り《リセット》される。
はずなのだ。
それなのに、この人間、黒桐魁斗は、待っていたと言った。
つまり、天月奶斗を知っている。
奶斗は、黒桐魁斗に一度もあった事がない。リセット直前までは。
つまり、黒桐魁斗には、リセット直前の記憶がある。
《リセット》の影響を受けていない。
一体、何故ー?
「訳が分からないって顔だな。安心しろ。俺にはリセット直前の記憶なんて無い。お前と出会った事も、無い。」
記憶なんて無い。会ったこともない。
なのに、知っている。奶斗の能力の事を。
どういう事か、ますます理解ができなくなってしまった奶斗は、とりあえずソファーに座った。
魁斗も、今まで硬かった顔を少し柔らかくして奶斗の向かい側に腰を降ろした。
「なんで俺の事を知ってるんですか?あなたは。」
このように会話をするのも、奶斗にとっては久しぶりの体験であった。
分岐点を通過するため、通過点の会話なら、幾度となく交わしてきた。
しかし、自分の意思をもって人と会話をするのは、実に久しぶりなのである。
「タメでいいよ。それで、なんで俺がお前の事を知っているのか、だったな。」
コクリ、と奶斗は頷いた。
「視たからさ。お前の事を。」
当然、理解できる訳がない。
なんと言葉を返していいか分からない奶斗は、固まってしまった。
「まぁ、分かりやすく言うと、俺もお前と同じく、特殊な能力を持っちまった人間なんだ。」
この言葉に、奶斗はひどく驚いた。
今まで繰り返した無限にも思える人生の中で、自分と同じく能力を持っている人間に出会ったことなど、一度も無かった。
次々と現れる新情報を処理しきれていない奶斗のことなど気にもせず、魁斗は話を続けた。
「俺の能力、というか《オリジン》って呼んでるんだ。俺らと同じく、能力者たちは。」
まだ先程の情報を処理しきれていなかったが、これだけは聞いておかなければならない、と一旦情報処理をやめた奶斗は、身を乗り出して質問した。
「他にも能力者がいるのか!?」
「ああ。俺の知る限りでは、十人は確実にいる。全員、何らかの拍子で手に入れてしまった、という訳だがな。」
一万五千六百九十三回繰り返した人生で、そんな人物に出会った事がない。
そんなにいるなら、どうして今まで出会えなかったのか。
「話を戻そう。俺の能力は、《超千里眼》。目標にした人物の心の中、考えている事、今までの人生、年齢、性別、性格などが頭の中に入ってくる能力だ。その他にも、遠く離れた所の映像を目に映す事などもできる。俺がお前の事を知ったのは、お前を視たからさ。」
一応、すべての情報の処理が終わった。
つまり、黒桐魁斗はあらゆる秘密を暴いてしまう事ができるのだ。
今まで奶斗が体験してきた人生を、一瞬でこの男は理解してしまった。
恐るべき能力を持った男だ。
「何で雨の世界で俺がお前にそのような事を言ったのかは分からない。だが、意図は想像する事ができる。」
奶斗も、大方想像がついた。
「俺なら、お前の記憶の中の少女の正体を、視る事ができる。」
この世界の一番の謎。
謎の少女の正体。
それが明らかになった時、世界は加速するだろう。
最善の、未来へと。