コメディ・ライト小説(新)
- Re: 恋芽生え、愛が咲く。〜短篇集〜 ( No.2 )
- 日時: 2017/04/02 23:55
- 名前: 珠紀 (ID: v2e9ZzsT)
『愛しの神様』
藤田亜依佳 Aika Fujita
学春 Haru Manabu
*Start*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は小さい頃から持病があった。
それは今でも治らないままで、学校なんてきちんと行ったことなんてない。
外の世界なんて知らない。
私は『鳥籠の鳥』ー…。
だけど、そんな私が絶望で埋め尽くされなかったのはかけがえのない存在があったから。
「亜依佳!寒い!暖めて!」
病室の扉を荒く開けられたかと思うと急に抱きつかれる。
「冷たっ!…外こんなに寒いんだ」
そのかけがえのない存在というのは彼のことだ。
「うは~……亜依佳、あったけ……」
私は彼の身体を抱きしめ返して、クスリと笑う。
「……ん?」
「なんでもなぁい」
「そ?あ、はい写真」
春が写真を差し出す。
春の夢は『カメラマン』だ。
私の病室にくるたびに、外の景色を撮って持ってきてくれる。
春が病室に来るのと同じくこれも私の楽しみである。
「わぁ……ツリーだぁ」
写真に写っていたのは大きなクリスマスツリーだった。
そう、今日は二十四日。
クリスマスイヴだった。
「見たいなぁ」
「明日、行く?」
私の呟きに、春は嬉しそうに返す。
「俺も亜依佳と見たいし」
「あ……でも……」
私には外出許可は出ない。
……一生。
「ごめん……行けない」
春は私に何でもしてくれるのに……
私は何もしてあげられない。
「そっかぁ。じゃあ来年までの辛抱だな」
え……
「は、春!春は行っていいんだよ!?別に私にあわせなくてもっ」
「はあ?…誰と行けってよ、カップルのイベントなんだから亜依佳がいねーと意味ないし」
春……ごめんね。
私はみんなが出来ることもあなたにやってあげられない。
力強く春に抱きつく。
「……?どした?」
「何でもない」
約束さえも守れないんだから。
…***…
「亜~依佳」
「あれ?今日、学校終わるの早いね」
「サボった」
ーゴチンー
「ひでーよ!殴るなんて!」
「もぉ…サボりなんてダメでしょ?」
思いっきり叩いた頭を春は抑えつけて恨めしそうに私を見つめる。
「だって、会いたかったし」
ポツリと呟いて、彼は背中を向けてしまった。
……拗ねた……。
「……は……………っ!」
春の名前を呼ぼうとしてその声が途絶える。
……発作。
「亜依佳?」
異変に気づいたのか春は私の方に駆け寄った。
「先生!」
運良く先生が通ったために、私は落ち着いた。
けれど……春は先生に連れて行かれてしまった。
きっと、『あのこと』だ。
━━十分経って春が帰ってくる。
案の定、春の顔は青白く怒りを露わにしていた。
「心臓の手術……成功率三十%……手術しないと後一年」
ポツポツと喋り始める春。
「……っざ……んな」
「……」
「……っ……ふざけんなよ!!なんで……っ!なんで黙ってたんだよ!!」
「手術しなければ一年も一緒にいられる!」
春の怒鳴り声に重なり私の声が響く。
「私は……少しでも春と一緒にいたい」
「一年しかいられない」
春に睨まれて、身体が震える。
「……じゃあ三十%に賭ければいいの?死ぬのは私なんだよ!?……っ無責任なこと言わないで!」
嫌だ……イヤだ……
離れたくない。
まだ生きて…春のそばにいたいのに……
「ただ……一緒にいたいだけなのに……」
涙が手の甲に落ちた。
そっと春に抱きしめられる。
「亜依佳……聞いて。俺は、亜依佳以外を好きになることなんて有り得ない」
「え……?」
「残りの七十%。俺は一生亜依佳を好きでいる……これで百%だ」
そう話す春の身体は震えていた。
声もかすれて泣いていた春の姿をみて私は首を大きく縦に振った。
━━手術当日
「春君、来ないわねぇ」
手術二十分前。
もう準備しなきゃいけない時間なのに春はまだきていなかった。
もし……このまま会えなかったら……
そんな考えが頭をぐるぐると回る。
「亜依佳!」
春の声が響いた。
声の方を振り向くと息を切らした春の姿がある。
「ま、間に合った……これ」
「お守り?」
「そ、これ買ってたら遅くなった」
二ヒヒと笑う春の顔を見てほっとする。
「ありがと……」
「うん」
そう言って春の見送りを背に、
私は手術室へと向かった。
…***…
「ん……」
目を覚ますと、そこは見知った天井。
「亜依佳!」
お母さんに抱きしめられ朦朧としていた頭が再起動する。
成……功……?
私は飛び起きて春の姿をさがす。
だけど、どこにもいなかった。
「春は……?」
「亜依佳……落ち着いて聞いてね」
なに……この雰囲気。
春は?どこなの?
「春君はあなたの所に向かってる最中に事故にあって……」
『即死だって』
一瞬、頭の中で何かが粉々に割れた音がした。
嘘だ。
そんな……だって……私の所に来たじゃない。
春がいないんなら、何で……
「いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!何で!?何で!?手術成功したのに!!!!」
どうして私を生かしたりしたの。
やっと春と未来を歩けると思ったのに……
「やっと……春、と……っっ」
ーカサッー
何かに手があたりそれを拾い上げる。
「手紙?」
『いつまでもメソメソしてたら許さねーぞ!』
春からだった。
そこにもう一つ……
私と春が写っている写真。
「は……る……」
死んでも尚、春は私の心配をしちゃうんだ。
本当……春にはかなわない。
「ありが、と……」
そう呟いて私は写真を抱きしめた。
*End*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー