コメディ・ライト小説(新)

Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.11 )
日時: 2018/04/03 01:56
名前: Aika (ID: tcaX5Vvk)

Episode6:二つの心。





わたしは、自分の気持ちばかりしか見えていなくて。一番近くにいる、二人の想いに何一つ気づかない―――。



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新学期がはじまり早くも1週間が過ぎて、授業も本格的に始まった。
今は国語の現代文の授業。
勿論、教えているのはわたしたちの担任・裕樹さん。

「―――それで、この時の筆者の考えが」

教科書を片手に板書をしていく裕樹さんの背中をわたしは頬杖をつきながらボーッと眺めていた。

机に置かれた教科書は開かれていなくて閉ざされたまま。ノートも取る気になれず、わたしは窓の外の雲ひとつない澄みきった青空を眺めているだけ―――。

いざ、同じクラスになると。

裕樹さんがいかに遠い存在なのか。
はっきりと思い知らされる。
正直、 これなら違うクラスの方が顔を会わせる機会だって少ないからほっとするのにな。

ほんと、 最悪だ。




―――キーンコーン。




そんな考えばかり思い浮かべていたら。
いつの間にか授業の終わる時刻になっていたみたいでチャイムが鳴り響いていた。

そこで、ハッとして顔を上げる。

「んじゃあ…今日はここまでな。あ、日直!これ運ぶの手伝ってくんねーか?」

そう言って裕樹さんはクラス全員分の宿題のプリントをひらひらとなびかせながら、こちらの方を見て言っている。

あれ?今日の日直って…。

「早くしろよー、 桜」

わたしじゃねーか!
しかも、裕樹さん普通に下の名前で呼んでるし!!

その瞬間。
クラスがざわめき始めた。

「え、何で相田ちゃん、桜のこと名前よびなんですか?」

気になったクラスメイトの女子が裕樹さんに向かってそう聞いていた。
まぁ、普通気になるよね。

「え…何でって俺と桜は幼馴染みで小さい頃からよく知ってるからだけど?」

しれっとした顔で普通にそう言う裕樹さん。
その事実にクラス中がまた、ざわざわとどよめき始める。
それを聞いたクラスメイトが目の色を変えてわたしの方へと駆け寄ってきてあれこれ聞いてきた。

「何々?幼馴染みってことは、付き合ったこととかあるの?」
「あ、それ気になる!どーなの、桜!」
「てか、現在進行形で付き合ってないの?」

一度に色々聞かれて戸惑っていると。
そこに裕樹さんが現れて。
わたしの腕を掴んだ。

「――俺と桜はただの幼馴染みなんだから馬鹿なこと聞いてんじゃねーよ。行くぞー」
「ちょっ…ゆう…先生!」

クラスメイトにそう言い残して。
わたしを引っ張って教室から出ていった。

その光景を一部始終見ていた志穂と智也は――。

「マジかー…桜と先生って幼馴染みだったんだねー。あの様子だと先生は桜に気がありそうだね、智也」
「そんなの…見てりゃー分かるわ。…けど」
「けど?」
「―――あんな奴にアイツを渡すつもりねぇし」

智也が真剣な顔でそう言うと。
志穂は小さく笑って。

「強気だね、さすが智也だわ」

二人がこんな会話をしているのも知らず。
わたしは、ただ先生に引っ張られるがまま、後をついていっていた。

「あの…裕樹さん」
「何だよ」
「そろそろ…離してもらってもいいっすか?」

恐る恐るそう聞くと。
裕樹さんは慌ててわたしの手を離して謝った。

「あっ…わりぃ!引っ張っちまって。痛くなかったか?」
「いや、それは全然大丈夫です。でも…幼馴染みとか言って大丈夫ですか?変な噂とか流れたら――」

わたしが目を伏せてそう聞くと。
安心させるかのように優しい瞳でわたしの頭に手をおきながら。

「大丈夫だよ。アイツらにはただの幼馴染みってちゃんと言ったしな」
「そう、だけど」
「俺、隠し事とかできないからさ。それに今更桜のこと名字で呼ぶのもなんだかなー」
「わたしは、先生ってちゃんと言ってるのに」
「あれ?さっき俺のこと名前で呼ぼうとしてなかったっけか?」

からかうような問いかけにうっとなって言葉がでない。
無駄なところだけ覚えてんだから。

「あと、お前さー今日の俺の授業、全然聞いてなかっただろ」
「えっ!何で知ってるの!??」
「何でって…お前、そんなの―――」

―――キーンコーン…。

裕樹さんがそう言いかけると休み時間が終わるチャイムがなって。

「やっば!教室戻んなきゃだ!じゃーね、裕樹さん!!」

話の途中でわたしは、慌てて自分のクラスに戻っていった。
取り残された裕樹さんは。
誰もいない廊下でポツリと呟いた。



「―――そんなの…桜のこと、ずっと見てたからに決まってるだろが。気づけよな、 バーカ」





その声は当然、 わたしの耳には届くはずもなかった。