コメディ・ライト小説(新)

Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.15 )
日時: 2017/06/06 00:14
名前: Aika (ID: WVWOtXoZ)

Episode10:特別だから。




叶わないって痛いほど分かっていても。
届かない気持ちだって知ってても。

それでも。




君が好き―――。



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「だーから…何度言えば分かるんだよー。そこはラ行変格活用でこう直すの!」

現在。午後9時過ぎ。
わたしの部屋にて裕樹さんと勉強中。
古典で分からないところを徹底的に教えてもらっているのですが―――。

全く分からなくって困っている。

「もうワケわかんない!何よ、変格活用って!全然覚えらんないんだけど!!」

こんな表、今からやっても覚えられる気がしない。まぁ、常日頃から勉強していなかったわたしが悪いんだけど!

「ったく…桜は直前にいつも詰め込もうとするから駄目なの!前もってやっておきなさい」
「裕樹さんは何ですか、わたしのお母さんですか!」
「なんだよー、それ」

そう突っ込みを入れると裕樹さんは楽しそうに笑った。
その笑顔にまた、鼓動が大きく揺れる―――。

それと同時にその優しい笑顔をわたし以外の生徒に向けていると思うと。
心の中が黒い感情で渦巻くような嫌な気持ちになった。
やだな、わたし。
何をそんな小さなことに苛立っているんだろう。
彼女でも何でもないくせに―――。


「―――桜?ボーッとしてどーしたんだよ」
「えっ…いや、なんでもない」

いかん。今は勉強中なんだから集中しないと。
裕樹さんだって時間を裂いて教えてくれてるんだから。
それにしても―――。

「裕樹さんがわたしの勉強見てくれると思わなかった」

それも、裕樹さんから勉強を見てくれるって言ってくれた。
先生の立場だから一人の生徒に肩入れなんかしないだろうなって感じてたから。

裕樹さんの方へちらっと視線を向けると。
裕樹さんは少しだけ頬を赤く染めながら。

「―――お前は…特別だから」

予想外の言葉に。
わたしの思考は停止した。驚きのあまり握っていたシャープペンを落としてしまって。
コロコロ…と、床へと転がっていってしまった。

それをとっさに拾おうとしたとき。

わたしの手の上に。
裕樹さんの手が重なって。

手が熱を帯びたみたいに、熱くなった。

「っ…ごめんなさい!」

反射的に手を引っ込めようとすると。
裕樹さんに勢いよく腕を捕まれた。

その行動にまた、ビックリして―――。

わたしが顔を上げると。




―――すぐ近くに裕樹さんの真剣な顔があった。




「あ…の…裕樹、さん?」



震える声で彼の名前を呼ぶと。
裕樹さんはハッとして。


「わりぃ!」


そう言って。
パッと掴んでいたわたしの手を離した。


静まり返った室内には時計の針の音だけが鳴り響いていた。

しばらくして、 裕樹さんが口を開く。


「もう遅いし…帰るわ。勉強はまた今度な」


わたしは、その言葉になにも返すことができなくって。去っていく彼の姿を見送るばかりだった。
力なく閉まる玄関の扉の音を聞いて。

わたしは、 自分の部屋でうずくまる。





捕まれた腕は…まだ、 彼のぬくもりが残っていて―――。





『お前は…特別だから』






特別ってなに?
幼馴染みだから?それとも―――。






聞きたいことは山ほどあったのに。
このときのわたしは。






なぜか、その場から一歩も動けなかった―――。