コメディ・ライト小説(新)

Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.29 )
日時: 2017/12/15 00:42
名前: Aika (ID: FrSbz3kt)

Episode22:聞きたかった二文字。





午前の自分のシフトが終わって、やっと自由時間。
志穂は急に具合の悪くなった女の子がいて、その子の代わりにお店に出ることになり、まだ働いている。
ほんとは、わたしが出ようと思ったんだけど――――。


『これから、智也のライブ見に行くんでしょ?アイツは桜に見てもらいたいはずだからここはあたしに任せて!』

そんなことがあり、わたしは志穂の好意に甘えて今に至る。
でも、一人でライブに行くのもなんだか寂しいしなー…なんて、考えながら裏庭を歩いているときだった。

「―――相田ちゃん!一緒にまわろうよ~」
「待ってよ、先生!」

黄色い女子の声が聞こえて振り返ると。
集団の女子から逃げている裕樹さんの姿が見えた。

全力疾走でこちらに駆け寄る裕樹さんをわたしは避けることができず。

―――ドンっ…。

勢いよくぶつかってしまった。


「―――わりぃ!って…桜?」
「たた…」
「ごめんな、立てるか?」

手を差しのべた裕樹さんの手を取ろうとしたとき。

「せんせー!どこー?」

―――女子の声にビクッとした瞬間。
裕樹さんが勢いよくわたしの手を引いて。

「こっち!」
「え!?ちょっと!」

草むらの所に隠れるように、二人でしゃがみこんだ。

「あれー?どこ行っちゃったんだろ?」
「たしかにこっちの方に来たよね?」
「せんせー、逃げ足はや!」

そんな声が飛び交い、徐々に足音が遠ざかっていった。
そんな様子に裕樹さんはホッとした顔をしていた。
なんというか…モテる人はつらいんだな。

「なんで、わたしまで先生と一緒に隠れないといけないんですか?」
「いいだろ、別に。無意識に引き寄せちゃったんだから」

無意識にって―――。

何気ない言葉なのになぜだか、ドキッとした。

「それに一瞬とはいえ、お前と手を繋いでるところとか誰かに見られたら大変だしこれで良かっただろ?結果オーライじゃん?」
「なにそれ…」

わたしが、笑うと。
先生も優しく微笑んだ。

なんだか…久しぶりだな。こんなやりとり。
最近は、気まずくてお互いにあまり話すことなんかなかったからかな。
ちょっと嬉しいかも―――。

「そういや、桜は今自由時間だったよな?どこまわるんだ?」
「えーっと…智也から軽音部のライブに絶対見に来いって言われてるからそこ行こうかなって」

そう言った瞬間。
先生の顔が一瞬だけ曇って…それから。
わたしの瞳を真っ直ぐに見つめて。
口を開いた。

「桜ってさ…アイツと…長谷部とやっぱり付き合ってんの?」
「え…?」

わたしが唖然とした顔で聞き返すと。
捲し立てるように裕樹さんが付け足すように言う。

「いやっ…その…最近、すげー仲が良いからそーなのかなって思っただけで!その…やっぱり桜は俺の大切な幼馴染みで妹みたいなもんだから気になって、さ」

――妹、か。

その言葉にちょっとだけチクリと胸が傷んだ。
分かってたのに。
先生は…裕樹さんはわたしなんか、恋愛対象として見てないことなんか。

それなのに。



すごく、苦しかった―――。



「―――智也には…好きだって告白されたけど…まだ付き合ってない」

精一杯の作り笑いでそう答えた。
少しの間の後、裕樹さんが口を開いた。

「―――桜は…アイツが好きなのか?」




風がそっと吹いて。
サラサラの裕樹さんの髪が静かに揺れていた。

わたしは、自分の手をぎゅっと握って――。
裕樹さんの問いに答えた。



「―――智也とは一緒にいて楽しいとは思うし…好きか嫌いかで言えば勿論好き。でも…これが恋じゃないってことは知ってる」
「じゃあ…長谷部とは付き合わないのか?」
「それは…まだ分かんない。…付き合って好きになるってこともあるって聞いたから試しに付き合おうかなとか考えたりもしてるけど―――」
「―――駄目」




予想外の先生の言葉にわたしは、ビックリして俯きながら話していた顔を勢いよく上げた。

そこには、 切なげにこちらを見つめる先生がいて。不覚にもまた、鼓動が高鳴ってうるさかった。


その顔は、ずるい―――。




「―――好きじゃないなら…長谷部と付き合うなよ」
「―――なんで?先生には関係な」

関係ないと、いいかけた瞬間。

「あるよ」

そう遮られた。






それから、 先生はゆっくりと近づいてわたしの耳元で小さく呟いた。







「―――俺は…ずっとガキの頃からお前が好きだから」







ずっと…わたしが聞きたかった『好き』の二文字を。