コメディ・ライト小説(新)

Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.36 )
日時: 2018/03/20 21:19
名前: Aika (ID: ERCwuHMr)

Episode27:重なる面影。




―――連れてこられたのは、雰囲気のあるBARだった。店内は誰も客がいない様子でカウンターにマスターが1人いるだけだった。


「あたしの奢りなんで好きなだけ飲んでください」

席に座ると。女の人が優しく微笑んでそう言った。
俺は慌てて断る。

「いや…それは、さすがに。俺、別に大したことしてねぇし」
「いいから。…黙って奢られてください」

真っ直ぐに俺の瞳をのぞきこんで。
女の人は、はっきりとした口調でそう告げた。

なんか…何を言っても無駄な気がするし、コイツの言うとおりにするか。

俺は諦めて。
女の人と向き合う。


「分かったよ。…ありがとな」


そう言うと。
女の人は首を横にふって。

「お礼を言うのは…あたしの方です。助けてくれてありがとうございました」

俺は目線を合わせず。

「別に…放っておけなかっただけだから」

ただ、一言そう言った。


そこで、二人の間に沈黙が流れる。
聞こえてくるのは店内のBGMだけ。




―――気まずい…。




さっさと飲んでさっさと帰ろ。





そんなことを心のなかで思っていると。




「―――実はですね…あたし、今日…彼氏と別れたんです」



脈絡もなしに女の人が突然そんなことを言い出した。
俺はなんて、返したらいいのか分からなくて押し黙ってしまった。
泣きそうな顔で女の人は言葉を紡いでいる。


「―――他の人と…浮気してたんです。ほんと、嫌になりますよね。あたし…彼に愛されてなかったんだなーって、思いました」


そこで。女の人の大きな瞳から溜まっていた涙がこぼれ落ちた。
俺は、そっとハンカチを差し出した。


「―――ふけよ、涙」


ぶっきらぼうにそう言うと。女の人はハンカチを手にとって。


「ありがとう…ほんと、優しいんですね」


そう言って笑った。


「別に、優しくなんかねぇよ」



なぜだか、放っておけない。
そう感じた理由がいま、はっきりとわかった。



コイツの笑った顔とか、泣いた顔が。
どことなく。






桜に、 似てるからなんだって―――。








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「――あのさ…ほんとに奢りで良かったのか?」
「だから、良いって言ってんじゃん!あたしが付き合わせたんだし」
「なら、いいんだけどさ」


女に奢らせるって男として良いのかなんて、あれこれ考えていると。
女の人が不意に口を開いて。


「―――じゃあさ、そのかわり…また今日みたいに付き合ってくれる?」




「え?」





言葉の意味を理解するまでに時間がかかって。
呆けていると。





「これ、あたしの連絡先。迷惑じゃなかったら登録しといて。それじゃ!」



連絡先を書いた紙を俺に押し付けて。
彼女は走り去っていく。


「あっ…おい」







去っていく彼女をひき止めることもできず。
俺はその場に立ちすくんでいた。




「なんだよ、言いたいことだけ言って帰りやがって…」






―――霧崎玲奈。







紙にはそう書いてあって。
電話番号とLINEのIDが綺麗な字で綴られている。





「―――玲奈、ね」






誰もいない、静かな星空のした。






俺は小さくそう呟いた。