コメディ・ライト小説(新)
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.56 )
- 日時: 2019/02/08 01:48
- 名前: Aika (ID: PyqyMePO)
Episode43:夕暮れのなか、揺れる想い。
―――キーンコーン…。
放課後を告げるチャイムが鳴り、あっという間に新学期初日は終わってしまった。
先ほどの…志穂の泣きそうな顔がさっきから脳裏によぎっては離れずにいた。
―――志穂のあんな辛そうな表情…初めて見たかも。
何とも言えない複雑な想いを胸に抱えて…教室から出ようとしたときだった。
―――ドンっ
扉の前で…
ちょうど、教室に入ろうとした人物とぶつかってしまった。
「あっ…すいませ――」
そう言いかけた言葉が詰まる。
そこにいたのは…
智也だったから――――。
ヤバイ。
志穂のこともあるし…今はどんな風に智也と接したらいいのか分かんない。
わたしが、しどろもどろしていると。
智也はさして、気にした様子もなく。
「桜かー、 大丈夫だったか?怪我とかしてねぇか?」
ほんとに…いつも通りすぎて。
調子が狂いそうになる。
わたしは、智也から視線をそらして
「うん…だいじょーぶ…じゃね」
自分でも不自然だと思いながら、逃げるようにその場から去った。
だって…志穂の気持ちを考えたら。
もう、 智也と前みたいに仲良くなんて話せない。
だから、 だから――――。
「―――待って!」
瞬間。
後ろから腕を捕まれた。
な、 なんだろ。
わたしが横目で見ると…智也が髪をかきむしりながら、問いかけてきた。
「―――桜、さ。なんか、よそよそしくね?」
―――ギクッとした。
なんで…いつも智也は…わたしの心の奥底を読み当てるのだろう―――。
なにも答えられずにいると。
智也は優しく笑う。
「―――志穂から…祭りの時のこと、聞いたんだろ?」
「なっ…なんで、わかんの!?」
ビックリして…過剰な反応をしてしまい、周囲の視線が私たちに突き刺さる。
罰の悪い顔になってしまったわたしに、智也は耳元でコソッと言う。
「―――部活…今日はねぇから、一緒にかえろっか」
「あ……」
答えられずにいたわたしを無視して智也は鞄を取りに行ってしまった。
ほんと…勝手なやつだ―――。
ぼんやりとわたしは、そう思いながら扉の前で結局、智也を待ってしまった―――。
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いつもの帰路を智也と今日はふたりだけ。
けど…お互いに無言を貫いていて、静寂に包まれている。
―――いつも…智也と何を話してたっけ。
ヤバイ…頭が真っ白だよ―――。
「桜…だいじょーぶ?」
「へ?…あー、ごめん。なんか、智也と二人っきりが久々すぎて何を話したらいいのか分からなくなってるだけだから、ほんっと気にしないで」
捲し立てるようにそう言うわたしを見て、智也はクスッと笑った。
な、 なんで…笑うんだ?
すると、智也がこちらを優しい表情で見る。
「それってさー…俺のこと、意識してくれてるってこと?」
しばらく…思考が停止して。
ハッと我に返って言葉の意味を理解する。
「ちっ…違うから!断じてあんたのことなんか意識してない!」
「えー、そんなに否定されるとさすがの俺も傷つくなー」
全力で否定するわたしを見て。
智也がまた、茶化すように言う。
絶対にからかわれてる。
そう確信して睨んでいると楽しそうに智也が笑う。
「ごめん、 桜と二人でいられるのが嬉しくって…つい、からかっちまった」
不意に言われたその言葉に。
ほんの少しだけ、胸の鼓動が高鳴ってしまった。
無邪気な顔で…そういうこと、言うのはずるいな―――。
なんて、考えていると。
突然、智也は歩を止めて真剣な顔を向けて口を開く。
「言っとくけど…俺はまだ、お前が好きだから」
夕暮れのなか。
夏の…生暖かい風が、二人の間に流れる。
わたしは、俯く。
智也の想いは、嬉しい―――。
けど、わたしには…先生がいるし。
それに志穂のこともある。
だから…智也を選ぶことはたぶん、この先ない。
はっきりと、そう言おうとした。
だけど。
「―――たとえ、桜が先生を好きだとしても。俺は諦めない―――」
あまりの真っ直ぐな智也の視線から目が離せなくて―――。
気づけば…見とれている自分がいた―――。