コメディ・ライト小説(新)
- 第三話 ( No.18 )
- 日時: 2017/05/19 20:52
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: oGzh6o5z)
「碧波って好きな人いる?」
給食中、突然、啓に話しかけられた。――いや、突然というのはちょっと違うかな。現に今は班のメンバー(太一、啓、海貴、結愛ちゃん、私)で啓の元カノの話をしていたわけだし。
「いるよ」
その好きな人って啓だけど。今質問したそこの君だけど。勘づかれないように、私は普通のトーンで口を開いた。すかさず結愛ちゃんが驚きの声をあげる。
「えっいるの!?」
「ちょっ、あんま大きな声で言わないで!」
――今年初めて知り合ったのに。仲良し、までとは言えないけどこんなことも言えることになってきた。人見知りの私にしては結構すごいんじゃないかな。結愛ちゃんが表裏なくて明るく接してくれるのが一番の理由だろうけど。
どうやら他の班員には好きな人がいないらしくて、その話は終了。再び啓の元カノの話に戻る。
「で、他に誰?」
牛乳を飲みながら、私はその話に耳を傾けた。好きな人の元カノの話なんて聞きたくない人だっていると思うけど、私は結構楽しみ。誰と付き合ってたなんてどうでもいいけど、やっぱり興味があるんだよね。
「茉李ちゃん?」
「えっなんでしってんの」
「マジ? 趣味悪……」
驚く啓に、結愛ちゃんは呆れたような声を出した。茉李ちゃん――同い年とは思えないほど手足が細くて顔も小さい。目も大きいし気づけば彼氏がいる、って感じの子……結愛ちゃんがああいうのも無理はない。私はそんなに関わりはないけど、あんまりいい噂は聞かないなぁ。
「啓の趣味が理解できない」
驚き、そしてまた呆れるように結愛ちゃんが口を開いた。
確かに言われてみれば今まで啓の元カノかもしれない、って理由で名前が挙がった子――正直言って、女子の大半はあまりいい噂を口にしてない。
「っていうか付き合って何するの? 意味ある? なんかすぐ離れちゃいそう」
「まぁ形だけ、って感じ?」
結愛ちゃんの質問に、啓はそう答えた。
形だけ――って言うけれど今までそれで何人の子と付き合ったんだろう。結局正確な人数は分からなかったな。そんなのは私に関係ないけれど、やっぱり気になっちゃう。
啓が小学生の時好きだった子、去年付き合ってた後輩、その他いろいろ――可愛い子ばっかりだったからやっぱり私には無理なのかな。
別に告白する予定はないけれど、ふとそんなことを思ってしまう。それでも、私はなりたかった隣の席で、同じ班で、一緒に話ができて、イベントも一緒に楽しめて、それだけで幸せだと思うけど。
翌日、好きな人の話はあれで終わったなんて思ったけれど実はまだ続いていた。啓も好きな人がいるらしくて、片想いし続けて3年らしい。3年間というと小6か中1辺り……? その2年間はどっちも同じクラスだったから、 やっぱりちょっとだけ期待してしまう自分がいる。あれ、去年後輩の子と付き合ってような……何ツッコミは置いといて、啓の好きな 人って誰だろう。
「碧波って誰好きなの?」
「めっちゃ気になる」
「その人同い年?」
啓、 結愛ちゃん、 海貴の順に質問が飛んできた。
「教えなーい。同い年だよ」
「啓?」
私が答えると、直ぐに海貴がまた質問してくる。――この質問、昨日も聞いたな、何て思いながら私は「違う」と言った。当たっているけれど。本人の目の前でそんなの言えるわけがない。――もちろん、本人がいなくても言わないけど。
「何でそこで俺の名前が出てくるんだよ 」
「確かに」
啓が笑いながら言う言葉に、私は同意する。海貴がただ単にふざけているのか、啓が目の前にいたからか、私の本心を知っていたか――何て分からないけどできれば3番目であってほしくない。
*
――啓の好きな人って誰だろう。 ここ最近、私は同じ疑問を心のなかで繰り返していた。啓は好きな人についての情報は一切口にしない。けど、同じクラスじゃない と言っていたような言っていなかったような ――。
啓は地味な私にも明るく接してくれるから よくわからない。勝手に私の下敷きを使って扇いだり、好きな人について質問したり、勉強教えてくれたり、同じ趣味の話題で盛り上がったり、好きな飲み物が同じだったり――どんな些細なことでも私はすごく嬉しいし、目を合わせて話せたりするのは本当に嬉しいんだけどやっぱり私じゃないのかな。
――掃除のとき、二人でバケツを洗いに行ったっけ。別に会話はなく、終始無言で行ったけど……バケツ洗いに行くだけでも誘ってくれ たのは嬉しかったな。結愛ちゃん見たいにはまだ話せないけど。掃除中でも話せるほどは仲良くない。
――ずっとモヤモヤ考えていて、ふと思った。 啓は私の好きな人を知りいのか、って。……もしそうなら、啓は私を好きじゃない。 啓の好きな人は本当に別のクラスかもだし。
普通に話せる仲になったって、結愛ちゃんや他の女子に比べたら私は啓とあんなに仲良く話せない。それでもやっぱり私は啓が好きだし、啓の好きな人が私だったら良いな――何て思ってしまった。
- 第四話 ( No.19 )
- 日時: 2017/05/29 23:10
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: xElOy2eq)
家に帰って私はスマホでとあるサイトを開き、ブログの項目をタッチしてみる。このサイトは前から使っていたけれどブログ機能を使うのは今回が初めて。フォロワーもあまりいない私だけど、とりあえず書いてみたかった。
タイトルは『やっぱり好きだなぁ』って感じで。ただひたすらに好きという気持ちを綴っていく。誰にも見られなくたって、誰かに見られたって、相手からは私のことは分からないから大丈夫。片想いしてる人なんて何人もいるんだから。
「……はぁ」
更新ボタンをタッチして、私は小さくため息をついた。もうすぐ中間テストなのに勉強のやる気は出ないし、こんなブログ書いてるし――気分転換に絵を描いたりピアノを弾いたりしようと思ったけど、やっぱり何もかもやる気が沸かなかった。
*
翌日、いつも通り7時の目覚ましで目覚めることはなく、10分くらい二度寝をするとゆっくりとベッドから身を起こす。これが毎日続く訳だけど、学校までは15分くらいでつくので特に問題はない。
いつも通り時間が進み、あっという間に下校の時間。中間テストの5日前なので部活はない。特に約束してる人もいないので私は一人で帰ろうとしていた。
――そう、帰ろうとしていた。
学校では禁止されている県道を、時間短縮のためいつも通り歩いて行く。そこまではよかった。そこまで、は。
「碧波、やっほー」
ふと、後ろから突然声が聞こえた。
何か足音がするな、何て思っていたけどまさか知り合いだったなんて。驚きながらも振り返るとそこには、ニコッと笑った啓が立っていた。
――え、何で啓が? 啓と私の通学路は途中からほとんど一緒。だからここにいるのはまだいいよ。でもなんで私に声かけたんだろ……。
「碧波でよかったわー……他の人かもしれないって焦ったんだよね」
「いやいや本人だわ……他の人だったらどうしてたの?」
「あっ、すみません……って言って立ち去る」
ハハハ、と笑いながら啓は私の横を歩いた。
二人で笑いながら、好きな漫画の話をしているとあっという間に分かれ道に。――私は啓の方向からも帰ることはできるけど、いつも通りこの道は真っ直ぐ行くことにしよう。
「じゃあね~」
「ばいばーい、また明日!」
少しだけ、たった短い時間だったけど――ものすごく嬉しかった。普通なら前にクラスメートが歩いてたってわざわざ早く歩いて声をかける何てしないのに。そんなのするなんて、よっぽど仲の良い人だけだと思っていたのに。――すごく、すごく嬉しい。下校の最後の最後で啓と会えるなんて。
嬉しい気分のまま、私は家に着くとすぐにスマホを手に取った。ロックを解除し呟きアプリを開く。手慣れたフリック入力でさっきの啓とのことを打ち込むと、電源を切って机に向かった。
*
「――おはよー」
「おはよ」
――ここ最近、何て運が良いのだろう。
朝、もうすぐで学校に着くというところで反対側の道路から渡ってきた啓とその友達にちょうど遭遇。……いや、あっちが私に合わせてわたってきたのかな? だって現に3人とも私のこと見てるし。啓と目合っちゃうし。
朝から声をかけてもらえるなんて本当に嬉しすぎる。こういうときだけ、自分は青春してるんだなぁ何て呑気なことを思ってしまう。
啓たちはクラスの鉢植えに水やりをするとかで、昇降口の階段の前で私たちは分かれた。この数分間の間でも、朝から啓と話すことができたのは素直に――嬉しかった。
- 第五話 ( No.20 )
- 日時: 2017/06/04 23:09
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: osQJhSZL)
「おはよ」
「おはよう」
ここ最近、私の朝は啓との挨拶から始まっている。登校中に偶然出会う、というのはもうないけれど、上履きを履いているときにたまに啓と時間が被ったりするから。
好きな人とは緊張して話せない、何てことは私にはなかった。自分から話しかけるのは少ないけれど話しかけられたらちゃんと話せるし、用事があれば私からでも話しかける。
「あ、こはるちおはよー!」
「甘味おはよ~」
教室に入ると早速甘味と挨拶を交わす。夏に近づくにつれ蒸し暑くなった教室で、私は荷物を机に置くと直ぐに取り出したノートでパタパタと扇ぎ始めた。隣の席にいる啓とたわいない話をして、提出するプリントをチェックする。
時計を見るともうすぐ予鈴のなる時間だった。朝練を終えた生徒たちが教室に入ってくる。更に暑くなった室内から、たくさんの話し声が聞こえてきた。
*
もうすぐ修学旅行とのことで、総合などの時間はほとんど二日目の班行動の計画の時間に当てられた。机を班体型にしてから、班長の海貴がガイドブックを手に持ちながら口を開く。
「こんな感じでいい?」
ぺらっと私たちの前に出されたプリントには、行く場所や滞在時間など、細かく書かれていた。この話し合いにあまり参加していなかった私は、申し訳なささと共に初めて行く場所への楽しさを実感する。修学旅行は二泊三日で定番の京都と奈良に行くのだけど、私は行ったことはない。だからここに書いてあるお寺等は全部初めてなのだけど。
そういえば啓は京都に行ったことあるって言っていたな――何て思いながら、啓の方に目を向ける。いつのまにかプリントは海貴の手元に戻っていて、二人でここはどうなるのか等と話をしていた。
「修学旅行楽しみだね!」
「そうだね、たくさん思い出作ろう!」
私はというと、結愛ちゃんとたわいもない話をしていた。机が班体型なのでいつもとは違い隣同士なので話もしやすいし。私の斜め前の席に座る太一は、話し合いの時間なのに机に顔を突っ伏していた。啓がちょっかいを出してもピクリとも動かないから、きっと寝ているのだと思う。
私は人見知りで、仲良くなるのに時間がかかるタイプなのだけどこの班の四人は、そんな私でも気軽に話せるタイプの人たちだった。何度も言うけど結愛ちゃんとは初めて同じクラスになったけれど、結愛ちゃんがフレンドリーなおかげで普通に話せる。啓だって、私なんかとは程遠い、スクールカーストの上の方にいるような存在だけど好きなものが一緒だったり、何度か同じクラスになることもあったからたわいもない話だってできるようになってきた。
「夢花今日誕生日なの? おめでとう」
休み時間、私の隣に座る啓はそう口を開いた。少し離れた席に座る夢花ちゃん――このクラスの学級委員は、ありがとうと小さく笑みをこぼす。
――羨ましい。夢花ちゃんが羨ましい。
私は関係ないのに、ふと、そんなことを思ってしまった。
下の名前で呼びあって、誕生日も覚えててもらえて。好きな人に誕生日を祝ってもらえたら幸せだろうな。たった一言でも、おめでとうと言ってくれたら。
――私の誕生日は今年は卒業してからになっちゃうのか……。啓が覚えててくれる可能性は0に近い。あぁやって下の名前で呼びあえるのも。
――啓は誰が好きなんだろう。私のことはどう思っているのだろう。
他の女子と仲良く話しているのを見ると、直ぐにこんなことを考えてしまう。あの子が好きなのかな、あの子の方が可愛いから。そんな考えをしたり、直ぐにそう思ってしまうのはやめたいと思うけど、どうしても気になる。私のことをどう思っているのだろう。
最近仲良くなってきたからとはいえ、告白はできない。今の関係が崩れたら嫌だ。振られたら、きっと立ち直れなくなってしまう。こんなに人を好きになったのは初めてだから。いつだって、どんなときも啓のことを考えてしまう。それくらい好きだから、きっとその分、笑いあったりできなくなるんじゃないかと思ってしまう。