コメディ・ライト小説(新)
- Re: 苺とミルクとひとつの愛を ( No.30 )
- 日時: 2017/09/04 18:49
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: wQzgmA98)
*11話
手持ちのしおりより行動が早く進んだのか、奈良のホテルについた私たちは夕飯までまだ時間があるので、布団を敷き入浴の準備を始めた。
今日のメンバーは昨日の未菜ちゃん、澪、あゆ、梨花ちゃん、マリンと私に杏と甘味が加わった8人部屋。
大体布団を敷き終えると、澪が直ぐ様近寄ってきた。『で、どうだったの?』と話を切り出す澪の周りに、あゆたちも集まってくる。
「そんなに、話せてはないかな……」
――1日一緒にいたけれど、 学校にいるときとあんまり変わらなかった気がする。
元々、啓は太一と海貴ととっても仲が良かったから、当たり前のようにずっと一緒にいた。私は結愛ちゃんといて、あんまり話せなかったかな……。
だけど、班で撮った写真は隣に並べたのもあるし、話せなくたって、一緒に居れたから――嬉しかった。
「えぇー、て言うか私、こはるちゃんと背の順交換したいなー」
――梨花ちゃんが小さく微笑んだ。……あぁ、背の順で並ぶと梨花ちゃんと啓は隣になるんだっけ。啓も梨花ちゃんの方が話しやすいのか、たくさん話してた気がする。
「……私、梨花ちゃんみたいに話せないから」
私が啓を好きになった理由は、うまく表せないけど、自分と正反対だから……なのかもしれない。自分にはできないことを何でもこなしちゃう啓が好きなんだ。――だから、啓が私に好意があるとは思えないけれど。
「そうかな? 結構話せてると思うけど……ねっ、皆でトランプしない?」
「「賛成!」」
ーー最近、なんというか、胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われるのが多くなってきてる気がした。寂しいような、辛いような、よくわからないけれど、啓とだんだん話さなくなってきたことが関係あるのかも知れない。
席替えして、班が変わったら、もっと話せなくなるのかもしれない。もともと消極的な私は、他の女の子と違って、あんなに気軽に話せたりはできないから。梨花ちゃんみたいに頭がよくて可愛くて、運動もできる訳じゃない。啓は私のことをどう思っているんだろーー悪いことばかりが、頭に浮かんでしまった。
*
三日目。今日はお昼頃まで奈良を観光して、新幹線に乗って学校へ戻る。いつもは時間の進みが遅いと感じるのに、この3日間はとても充実していたから時間の進みは早い気がした。まだ、一日目のような、そんな感じ。
鹿と触れ合ったり、大仏を見たり、普段できないことをやって修学旅行が終わりの時間になってしまった。――友達と夜中まで話したり、美味しいご飯を食べたり、啓と一緒にいれたり――思い出したらキリがない。多分、一番の思い出になったと思う。今までで一番、最高の思い出。
*
「碧波、見せて」
「どーぞ」
修学旅行が終わった数日後、私たちは旅行記作りに取り組んでいた。班のみんなで撮った写真はとってもたくさんあって、他の班の人にどんだけ仲が良いのかと驚かれるほど。写真を撮るのが苦手であまり笑えてない私でも、この写真だけはどれも笑顔で撮ることができた。撮ってくれたガイドの野々倉さんはもちろん、たくさんの思い出を作ってくれた啓たちに感謝をしなきゃ。
その啓はというと、先程の会話通り私の旅行記を見ている。まだ完成には程遠いし、下書きの字なんて汚いけど、こうやって一言交わすだけでも私には嬉しかった。友達だって思ってくれているんだ、って。
啓から返された旅行記に更に写真を貼り付けていく。自分のなかで特に気に入ったものを貼っているけれど手元の写真はあまり減らない。スケッチブックがやっと思い出に彩られた頃に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
- Re: 苺とミルクとひとつの愛を ( No.31 )
- 日時: 2017/09/17 18:43
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: 7hpTwsKa)
12話
「もうすぐ体育祭だねー」
夏休みが終了してから数日後――あゆの言葉を聞いて、私はカレンダーへと目を向けた。赤丸がついてる体育祭の日まで、あと2週間くらい。今週から練習が始まったわけだけど、この学校は二学期が始まってすぐに体育祭をやるから何だかとても早い気がする。
私が出場する種目はクラス対抗の綱引き、全員リレー、学年種目の大縄跳びと個人種目の三人四脚。
私のクラスは他のクラスに比べて運動が苦手な子が多い。私もその一人だから、どうにか足を引っ張らないようにしてるけどやっぱり他のクラスとの差は圧倒的だった。せいぜい、力が強いから綱引きが強いくらい。
中学校生活最後の体育祭になるわけだから、楽しめればそれでも良いかな、何て思ったりもした。
******
日が経つのはとても早くて、あっという間に体育祭当日。台風の影響で雨が降るかも、何て心配されていたけれどどうやらまだ曇りの模様。
今までクラスの人と決めてきた作戦などを思い出して、一つ一つ全力で取り組んで、最高の思い出になるように――。私はそう思いながらも生徒席へ向かうと、すでに梨花ちゃんたちが登校していた。
「こはるちゃんおはよー」
「おはようー!」
にこやかに微笑む梨花ちゃんの隣に椅子を置いて、クラスの子から配られたプログラムに目を通す。学校のやつとは違ってクラスカラーの青色で作られているそのプログラムは手作りらしく、クラス全員の名前と種目が載っていた。
ふと、自然に啓の方へ視線を向ける。特に用は無いし、案の定席替えをしてからは話す機会は驚くほど減ってしまった。私が別のクラスの友達と帰ることになったと言うこともあり、下校時間も合わない。登校の時だって、見かけることはあるけれどわざわざ話すことも無い。少しだけ残念だな、と思いつつも私から話しかけることはできなかった。
啓が他の女の子と話しているのを見て、羨ましいとかそう思うときもある。私だってあんなに気軽に話せたら良いのに――とか思っても、最後の中学校生活が、啓と同じクラスだってことを考えたら少しは嬉しい気持ちになるから私にはそれでも充分だった。
**
「次相川出るよ」
自分が出る種目の2種目前には入場門に並んでないといけないから、私は同じ三人四脚に出る甘味と杏と一緒に入場門前に座っていた。後ろの列には、同じく三人四脚に出場する澪、梨花ちゃん、あゆが座っている。
本番で緊張しちゃうから大人しくしてようと思ったのだけれど、あゆのその言葉に思わず耳を傾けてしまう。今行っている競技は200メートル走。そろそろ男子の3年生が始まる番。あゆと澪に背中を叩かれてトラックに目を向けると、確かに啓が走る準備を始めてた。
「ほらこはるちゃん! 啓のこと応援しなきゃ!」
「相川出るよ! 見て!」
「ちょっ、そんなに大きい声で言わないで……」
顔が赤くなっている気がして、あゆたちを止めようにもそんな言葉しか出てこない。前にも人はいるわけであまり見えなさそうだけど、頭の間から頑張ってトラックに目を向ける。スタートを知らせるピストルの音が鳴って、四人が走り出した。
「えっ、相川速くない!?」
「こはるっち! 応援!」
いつのまにか私も啓の走る姿に釘付けになっていた。啓は元々足が速くて、今回もリレーの選手に選ばれた訳だけどこの200メートル走はぶっちぎりの第一位。他のクラスの人と大きく差をつけて走った啓は、やっぱりとってもかっこよかった。
私は運動神経がゼロ……どころかマイナスにも届きそうな感じだから、こんなに速く走れたりするのには憧れも含まれているかもしれない。私と正反対だからこそ、とってもかっこよくて輝いて見えた。