コメディ・ライト小説(新)
- あー、頭痛い。とりあえず二話。 ( No.4 )
- 日時: 2017/04/22 20:17
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
第二話 テストという壁
チャイムが鳴った。それと同時に、歓声が起きた。
「うえーい、やっと午前のテスト終わったー!」
「やっと給食だ」
「あと一教科〜!!」
などなど、誰もが午前のテストが終わった事に喜びを隠せないでいる。
気持ちは分かる。あと、一教科だけになったのだから。あと一教科で、今まで自分たちを苦しめてきたテスト勉強などという地獄の作業をしなくて良いどころか、考えなくても良くなるからだ。
しかし、そんな状況でも喜ばない人間達がいる。
そのうちの一人が、私だ。
理由はそう。残った教科が一番苦手な英語だからだ。
勉強はもう復習するところは無い、というほどしてきたのだが、それでもやはり苦手教科というのは緊張する。
更に、運悪く給食、昼休み、と一時間以上の間が空いてしまう。
落ち込んだ気分でいると、隣にもっと気分を落ち込ませている男がいた。
どうしたのか、声をかけようとしたがすぐにやめた。
どうせまた女に対する嫌味を言われるだけだからだ。
私の隣の席にいる、女性恐怖症という全くもって女側からしては腹立たしくて仕方がない恐怖症をお持ちの男の名は、加納オサムだ。
クラス初めての席替えの時に隣の席になったのだが、未だに私が少し触れると調子が悪くなった、とか言って保健室へと直行する。
全くもって、腹立たしい男である。
そんな男が気分を落ち込ませていようと、私には関係ない。私は家から持ってきた弁当を取り出そうと鞄のところまで行った。
今更だが、この学校は弁当を持ってきて昼ご飯を食べる、という風になっている。一応購買もあるが、腹を空かせた野獣男子どもが我先にと信じられないスピードで購買のおばちゃんのところまで行き、たった五分で大量のパンやおにぎりなどを買い占めてしまうので、私のような力弱い女の子はとてもではないが購買を利用することはできない。
だから私は、弁当派。弁当は、自分で作っている。
こう見えても、料理は好きな方なのだ。それを知っているのは、やよいちゃんくらいだが。
弁当を取り出して、やよいちゃんの所へ行こうとした時、誰かに止められた。
後ろから肩を手で掴まれたので、後ろを振り返った。するとそこには、ナルシストこと葉山トオルが困った顔で私の肩を掴んでいた。
「何?葉山。私急いでるんだけど」
いや、本当に。みたいな顔を作り出す事に努力したのだが、その努力も虚しく葉山は私に話し始めた。
「急いでるところ悪いね、ちょっと聞きたい事が!見れば分かるけど加納が今までにないくらい落ちこんでるんだよ!何か知らない?不慮の事故だったとはいえ、加納の体に何回も触れてしまったとか……」
ああ、女に触られた前提なんだ。同じ男から見ても、あいつが落ち込む理由はそれくらいと認識されているのか。
私は加納に触れていないし、触れようとも思っていない。だから、私は無関係だ。
「んーん、知らない。他の誰かじゃない?」
「そうか、ありがとう!」
そう言うと葉山は近くにいる女子のところへ走って行った。
何だか女子を片っ端からナンパしている男にしか見えないのだが、まあ良いだろう。
教室にはもうほとんど人は残っていなかった。ほとんどの人が弁当を持ってどこかへ行ったのだろう。
残っている人は、どこで食べるか話している人達と、葉山と、加納と、そして一人で弁当を食べている女の子一人だけだ。
状況を把握した時、私は迷った。
一人で弁当を食べているあの子に話しかけるべきか、そうするべきではないか。
確か彼女の名前は町野みなだった筈だ。いつも静かにしているため、影の薄い彼女は、誰かと笑って話しているところを見た事がない。
私は、もしかしたら自分もそうなっていたかもしれない、と思い彼女に声をかけるべきだと思ったが、やよいちゃんを待たせているのでまた今度にしようと思い教室を去った。
この時、私は彼女に声をかけるべきだったのかもしれない。
「さぐりーん!早く早く〜」
私達がいつも弁当を食べている場所は、屋上にある屋根付きベンチだ。
この学校は屋上へ行く事自体はハードルが高くなく、北舎四階にあるドアから、誰でも屋上へと行く事ができる。
屋上は広く、また珍しく様々な物が置いてあるので、生徒には人気のスポットだ。
しかし、弁当を屋上で食べる人は少ない。
理由は簡単。屋上まで行くのがめんどくさいからだ。
生徒の教室は全て南舎にあり、北舎まで行くには時間がかかる。そんな時間がかかる行動をするより、南舎の空き教室やグラウンドの日陰で食べた方が早い。
なら何故私達はここで弁当を食べているかというと、誰もいないからだ。
誰もいないからこそ、色々な話を遠慮なくできる。周りの目を気にすることなく、好き勝手に話す事ができる。だから私達は屋上で弁当を食べる事にしている。
やよいちゃんが先にベンチに座っており、手を振ってきたので手を振り返した。
そこで私の視界に映ったのは、やよいちゃん一人ではなかった。
やよいちゃんの横に、一人の女子生徒が座っているではないか。
しかも、彼女を私は知っている。須原の隣の席の、眼鏡がトレードマークの榊原まなみさんだ。
ベンチのところまで行くと、榊原さんは軽く礼をした。
私も礼を返すと、やよいちゃんが状況を説明した。
「知ってると思いますけど、この子はまなまな!なんとまなまなはですね、私達と同じ中学だったんですよ〜!たまに話すんです」
同じ中学出身の人が意外と周りにたくさんいて、びっくりしているこの頃。
同じ中学だったと言うことは、私が不登校だったという事も知っているという事だろうか。
ちなみにまなまなと呼ばれているのはもうつっこまない。自然に受け止めるのだ。
「話すのは初めてだね、水原さん。邪魔してごめんね」
「邪魔なんてとんでもない。でも、どうして今日はここに?」
私が尋ねると、今まで穏やかだった顔を急に一変させて突然声を荒げて語り始めた。
「須原に腹が立ったから!やよいに愚痴聞いてもらってたの!あいつ、テスト中も寝てるし、それでいて解答欄は全部埋めてるんだよ!?テスト開始した瞬間に解答欄全部埋めて、それで寝る。あー、腹たつ!なんであんな奴が頭良いわけ!?」
あ、まったくの同感。
須原はやはり色々なところで反感を買っているらしい。
といっても、今はまだ少ないだろう。
今はまだ、テスト中寝ているただの阿呆としか思われていないだろう。
これで、中学時代のような点数を叩きだしたら、みんなは驚くに違いない。
その驚きがいつか敵意に変わるのも、そう遠くないはずだ。
須原に対する愚痴をずっと言っている榊原さんの隣に座り、私はやよいちゃんにテストの出来を聞いてみた。
すると、やよいちゃんが珍しく勝ち誇ったような顔をして、自信満々に答えた。
「バッチリですよ!さぐりんのおかげで、バッチリです!あとは英語だけですけどね……」
やよいちゃんも私と同じく英語が一番苦手だ。
私はやよいちゃんに英語の事で大した事を教える事ができなかった。
やよいちゃんがしっかりと点数を取れるか不安だったが、その心配は不要だったらしい。
「大丈夫。英語なら教えてあげたでしょ」
榊原さんがやよいちゃんに教えてくれていたらしい。
そう言えば、須原に英語は大して教えられないと言ったら、知り合いに勉強できる奴がいるからそいつに英語は頼んでおく、と言っていたような気がするが、それは榊原さんの事だったらしい。
他人に頼むより、自分で教えた方が早いだろうに。
とりあえず、今は自分の心配をしよう。
これまでの四教科はまあまあ自信がある。
あとは、英語だけ。頑張ってみせる。
弁当をモグモグと食べながら、今まで勉強した事を思い返していた。
苦手といっても、これといって全然できないという訳ではない。
ただ、少し文法を覚えるのが苦手、というだけだ。
落ち着いてやれば、大丈夫。大丈夫。
そんな事を考えていたら、いつの間にか私は席に座り、テストに臨もうとしていた。
遂に、英語が始まる。
最大で、最後の壁が私の前に立ち塞がった。
大丈夫。勉強はしてきた。
努力が武器となり、その武器が安心感を齎す。
先生の声が始まりを告げようとしていた。
……よし。頑張ろう。
「始め!!」