コメディ・ライト小説(新)
- Re: 短編集 ( No.160 )
- 日時: 2018/03/12 01:35
- 名前: モズ (ID: qXcl.o9e)
『迷い故の洋館にて』prologue
昔々の噂話、今ではそれが話題に出ることなんて珍しい程に昔の噂話。
今ではそれを信じる者も居なくなり、過去なら禁止されていた『深夜の森への出入り』は解除された。
そう、過去には深夜に森へ出入りした少年少女ばかりが失踪する事件が勃発していたのだ。
何人かは戻ってきても口を揃えて、
「何も無かった……何も無いんだ」
そのような旨を述べていく。それから『深夜の森への出入り』は禁止された。
すると、勃発した少年少女の失踪はパタリと止まったのである。
しかし、時間が経てばそんなの気にならないお話として括られていく。
過去は過去でしかなくて、今ではその話が真実だなんて誰かが証明するつもりなのか?
そのリスクを避けたのか、過去の話としたのか、またはそれ以外の理由か。
訳はわからずとも、その禁止事項は解除された。
一人の少女が春先というのにまだ肌寒い深夜を紺のワンピースと海のような青のショール。
それだけを身に付けて、あとは透き通る青いパンプス。
手には一冊の分厚い本と真っ赤に熟したりんご。それだけを持って。
森へと駆け出す、後に続く者は誰一人としていない。彼女を包むのは静寂、それだけ。
突如現れた霧、彼女は動かずに何もせずに霧が消えることを待った。
そして霧が晴れた時、そこには無かった筈の洋館が建っている。
中からは愉快な笑い声、そしてこちらをジトリと見るような視線。
そして彼女を招き入れるように彼女より遥かに大きい扉は開かれるのだ。
──さァ、中へ入りなさイ。少女よ、もう戻ることは出来なイのよ。
その声に吸い込まれるように彼女は扉へ導かれ、歩き出してしまった。
その先に何があるのか知らずに、入ったらもう戻れない、何かをするまで。
歩んでしまってよいのか、もう歩んでいるじゃないか。もう、知らないよ。
彼女を唯一見守る月は彼女を見放すように雲に隠れてしまった。
包んでいた静寂は館の住人の笑い声で無かったことにされる。
迷いこんだ少女は、彼らと愉快に笑いを上げる。あぁ、感化。そうなのか。