コメディ・ライト小説(新)
- Re: 下書きだらけ ( No.165 )
- 日時: 2018/07/25 08:54
- 名前: モズ ◆hI.72Tk6FQ (ID: lQjP23yG)
『お雨ちゃん』
うちのクラスには変わり者、というか。うん、変わっている子がいる。
見た目は普通に可愛い女の子、というか学校でも中々の美人だと言われている。
皆と同じような黒髪の筈なのに彼女の肌がとても白いからより黒髪が映えて、
白い肌もより一層強調されて……ふわりと風に揺れる髪に見とれてしまう。
遠くから見ても近くで見ても彼女のふわふわした雰囲気に惹かれてしまう。
道嶋希子ちゃん。それが彼女の名前。うちの学年では『お雨ちゃん』と呼ばれている。
彼女はどうやら梅雨の季節が好きなんだという。あだ名の通り雨が好きなんだそう。
雨の日、彼女はいつもより機嫌が良い。他の女子は前髪が、湿気が、汗ばむなんて嘆くけど。
彼女はそんなの気にせずに、一番後ろの窓際の席で薄暗い景色を眺めてうっとりして。
そんな希子ちゃんの後ろ姿を教室の戸から覗き込んだりクラスで眺める男子もちらほらいたり。
微動だにせず眺める希子ちゃんは本当に雨が大好きで授業なんてそっちのけで雨を見ていて注意されたこともある。
希子ちゃんの隣の席の私はそんな姿を見て思う。一体雨の何に惹かれたのだろう、と。
だけどそんな雨に惹かれた希子ちゃんの微笑みに私は憧れを抱いてしまう。
六月に入った。そう、梅雨の季節。言うなれば雨がたくさん降る月、つまり希子ちゃんが恐らく好きな月。
希子ちゃんはるんるんの笑顔で昇降口にやって来たのを私は見ている。
学校指定の黒い、無地のつまらない傘を刺しながら彼女は笑顔だ。
下駄箱代りのロッカーに私はスニーカー、彼女はこれまた黒のローファーを入れて。
そしたら代りに中履きをだしてそれを履く。
「あ、おはよう。柊ちゃん」
「おはよ、希子ちゃん」
希子ちゃんは私、それとも私の視線に気付いたようであんな風に挨拶をしてきた。
それ以上は特に喋るようなことも無かったが、彼女に誘われて一緒に教室に向かう。
女子とはいつでも誰かと一緒に行動したがり、一人になるのを恐れる生き物なのだろうか。
それとも兎のような振りをして可愛がって欲しいのか、孤独とは怖いものだというのは伝わる。
それでも彼女の一緒に教室まで行かない? という問いにはそんなものは感じられなかった。
ただ階段を、廊下を二人で歩くだけだ。正直、集団生活というのは不便でもある。
トイレに一緒に行こう、いつでも孤独が嫌なのだろうか。
無自覚に友達を計っているのだろうか、そんなの分からないが。
友達というものが私にもいるのだが私達はどうやら自由みたい。
好き勝手にトイレへ行ったり、一人で何かをしていたりたまに喋ったり。
希子ちゃんはどうなのだろう。友達はたくさん居るんだろうけど。
そんな風に考えている内に三階の、私達の教室の前までに辿り着く。
雨で悶々とした空気の教室にいつも煩い男子もどこか俯くようで。
相変わらず女子は湿気が凄い、とか当たり前なことをほさぐ。
そんな教室を希子ちゃんは気にすることなく、窓際の席に向かう。
私も同じ方へ向かうのだから彼女の後に倣って向かう。
6月だ、雨によって湿気と暑さが籠る教室は私はとても嫌いだ。
彼女が爛々とした表情で窓の外、降り続けられた雨を見つめている。
隣の席の私もそれが視線に入ってどうしても気になってしまう。
どうしてそこまで雨が好きなのだろう、私にはそれが分からない。
確かにただ暑くてカラカラした夏よりは今の方がマシなのかもしれない。
どちらかといえばその中間の曇りの方が私は好きなのだけど。
太陽の光が苦手で暑いのが得意じゃなくて、じめじめして汗が吹き出そうな雨も嫌い。
もし雨ならば私は濡れて帰ってしまう、その方が涼しくて冷たくて好き。
そんな私の視線に気付いたのか、雨を見ていた筈の希子ちゃんが振り向いてきた。
何も聞こえなかった、というのは言い過ぎかもしれないが緊張かなんかで頭がボーッとしていたのか。
柔らかそうな唇を動かして最後に弧を描く。
『どうしたの?』 そんな風に動いたように見える。
だから私は平然を装って何でもないよ、を意味する首振りをする。
雨なんて、と思っていたのに希子ちゃんと見ていたらそれも違うのだろうか。
希子ちゃんに見える、特別な雨でもあるのだろうか。
不思議だけど惹かれる。雨にもそういう節があるのだろうか。