コメディ・ライト小説(新)
- Re: 彼女+僕=珈琲牛乳。 ~bitter&sweet~ ( No.17 )
- 日時: 2017/08/02 17:19
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
■:第5話 「環がいる教室」
──2時間目の数学……。
目の前に立つ先生が、色々と話しているが目の前に座っているにも関わらず僕の耳には何一つ入ってきやしない。
すごく気になってしまう。
単純に、僕にとっての環の印象は「屋上でいつも珈琲牛乳を飲んでいる奴」だから授業を受けてノートを書いたり、友達と話したりしていることが想像できないのだ。
後ろを向いてみようか……でも──。
「おい、日向。俺は後ろにはいないがなぜ後ろを見たんだ?」
突然ぴたっと喋るのをやめた、と思ったら先生は僕の後ろにいる日向の名前を呼んだ。
表情から真面目に怒っているのが感じられる。
「いや、ちょっと……」
後ろを振り返ると、何だか僕まで巻き込まれそうで不安だったからそのまま顔を前に向けた状態で日向と先生のやり取りが終わるのを待つ。
言葉に息詰まったのか、後ろをつんつんと日向がつついてくる。
……何で僕に助けを求めるんだろう。
変に助けたら僕まで巻き込まれるから無視をする……。
「まぁ今回はいいが、次回からは同じことをしないように」
さすがにこれを続けても時間の無駄になると気づいたのか、先生は話を切り上げた。
安堵のため息が後ろから聞こえる。
日向は出来のいい生徒だ。──僕と違って。
だから何となく先生も優しい気がする。 もし日向と同じことを僕がやったら、怒鳴られたり蹴られたり……色々なことをされるかもしれない。
というよりも、まずは席替えをして何とかしてここから移動したい。
どの教科の先生も話しながら、目の前にいる僕のノートを覗いてくるのが嫌なのだ。
そんなこんなで数学が終わった。
*
「……ったく、俺が助けを求めてるのに何で無視したのさ? 壮馬」
「めんどくさかったからだよ。僕だって数学の先生苦手だし……」
「ふーん」
「なんだよ? その、気のない返事は」
「いやー、なんか壮馬でもやっぱ先生の好き嫌いとかあるんだなって」
日向の言葉に僕は疑問を持った。
「……僕、そういうのなさそうに見えてた?」
「うーんとねー、なんていうかあんまり他人に興味なさそうだなって思ってたかなー。初めの転校してきた初日もクラスの奴らでそういう話を……」
「ちょっと日向くん!? 何言ってるの? そんなの新羅くん本人を前にして言うことではないでしょう?」
「えっ?」
何のことだかわからない、と言った表情を浮かべた日向もハッとして僕に謝った。
「ごめん! 俺、なんかこういうの鈍感で──」
「あぁ、大丈夫大丈夫。 確かに言われたことは真実だからさ」
……他人に興味なさそう、か。
だから転校してきた初日も、日向や委員長以外特に言葉を交わした奴がクラスでいなかったのか……。
他人に興味がなさそう、って思った人に話しかけようなんて誰も思わないのは無理のないことだ──……。
**
- Re: 彼女+僕=珈琲牛乳。 ~bitter&sweet~ ( No.18 )
- 日時: 2017/09/02 11:24
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
■:第6話 「事実」
「半日お疲れー」
そう僕は言って、屋上から外を見ていた環の横に立ち手に2つ持っていた珈琲牛乳の片方を渡した。
「約束覚えてたんだ」
「まぁ一応」
環は早速、パックにストローを挿して幸せそうに珈琲牛乳を飲み始めた。
……随分長い間飲み続けるな、と僕がそう感じ始めてから少し経ってやっと環はストローから口を離した。
「これはどこで買ったの?」
「どこって……学校だよ」
そうだ、全然気にしていなかったが環がいつも飲んでいた珈琲牛乳はこれとは違う種類だったはず。
僕としては、珈琲牛乳を買う約束をして以来学校にも珈琲牛乳が売っていることに感激し今も来る前に買って来たばかりなのだ。
予め買っておいて、それを渡したら「ぬるい」などと言われてはたまらんと僕なりに考えた。
「学校でも売ってるんだー! 知らなかった」
……じゃあ環はいつも、どこで珈琲牛乳を買っていたのだろう。
「環はいつもどこで買ってるの?」
何気ない意味で聞いた。「スーパー」とか「コンビニ」とかそういう返事が返ってくると思って──。
「……病院」
その一言は、たった一言だったが僕の予想に大きく反していたので思わずめまいがしてきそうだった。
「毎日?」
「毎日。だって病院毎日行くからそのついでで」
それを聞いて、僕は改めて「彼女は入退院を繰り返している」という事実を知った。
もちろん最初の頃に、日向から聞いていたし自分でも分かっていた。
……いや、分かっていた気になっていたのだ。
彼女から発せられた言葉によって、事実を改めて知るなんて……それにひどく同様してるなんて……。
「僕はまだまだ自分でも思っていた以上に子供みたいだ」
その時、再び飲み始めていた珈琲牛乳から口を離して何かを言おうとしていた環を僕は見ていなかった。
しばらく、僕らの間に沈黙が流れる。
──そろそろ昼休み終了のチャイムが鳴るかもしれない。……どのタイミングで教室に戻ろうか。
まだ開けていないで右手に持ったままの、自分の珈琲牛乳を見つめて僕は考えていた。
「今度さ、もし私が入院したらお見舞いきてよ。 待ってるから」
「行っていいの?」
「……なんで駄目なのさ」
笑いながら環は僕に聞いた。
「いや……だって、私達は屋上の仲間でそれ以上でもそれ以下でもないって言ってたから──」
「あー! まだ気にしてたのかー。……んー、あれはね今だから言えるけど私は君を試してみたの! あぁいう風に言っても話しかけてくるかどうか、ってね」
「そうだったの?」
その時の環の態度や表情は今でも色あせることなく覚えている。嘘をついてるなんて微塵も感じなかった。
「私的には、話しかけてくると思ってたけどいつまで経っても教室で話しかけられないから途中で私から君に話しかけに行こうかと思ったくらい」
「まじかよ……」
「でもそのお陰で、君は約束を破らないんだって分かったよ? だからこれは私にとっていい結果になったわけです! めでたしめでたしー」
──めでたしくもなんともない。
「だから、今度はお見舞い来てね! 約束して」
僕は環の時折見せられる、少し寂しげな表情に弱いのかもしれない……。
……そして環は僕のその弱い部分を見抜いてるのかもしれない。
「分かった。行くよ」
満足げに笑った環。──その環が、俺が見た最後の環だった。
*
次の日。環は屋上にいなかった。
その次の日も、そのまた次の日も……。
環に買ってやったも珈琲牛乳の自分の分をようやく開けて、ストローを挿して飲み始めた。
「甘い」
環がいつも飲んでいる珈琲牛乳よりもずっと甘い。
ひとりぼっちの屋上は限りなく広い──。
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- Re: 彼女+僕=珈琲牛乳。 ~bitter&sweet~ ( No.19 )
- 日時: 2017/09/03 23:43
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
■:第7話 「お見舞い」
昼休み後、教室に戻ったら日向に「最近環いないの?」と聞かれた。
──「なんで?」と聞くと「なんか壮馬がいつも以上にここ最近暗い気がする」と返された。
「それだけで、環のことに辿り着くもん?」と聞いた。
──「だって2人とも仲いいみたいだし、最近昼休みに屋上へ行く時いつもよりものんびりな気がする」と鋭いところをつかれた。
「日向は僕のストーカーなのか?」と訪ねてみた。
──「……そんな悪趣味なやつに見えるのか?」と少しだけ変な間を開けて日向が尋ねてきた。
*
この一週間、環は屋上にいない。 昼休みは僕だけの屋上だ。
お見舞いに行くと約束をしたものの、なかなか気が向かない。
……僕の中で、屋上にいる環と病院にいる環は違う気がすると決めつけているから僕の中で少しだけ恐怖感みたいなものが生まれてるのかもしれない。
「約束を破らないんだって分かった、か」
そんな風に言われたら、破りづらい。
本当に何から何まで、環には負けている気がしてならないのだ。
放課後、そんなことを思っていたら学校の珈琲牛乳が売っている場所まで来てしまった。
2つ買ってスクールバッグの中に入れた。
靴を履きかえて、1歩踏み出す。
もちろん行き先は、環の入院している──病院だ。
*
「ここって……」
環に教えられた通り、来てみたら見覚えのある病院だった。
微かに残る記憶を懸命に思い出そうと顳顬に手を当てて考える。
──そうだ。叔母さんと一緒にお婆ちゃんのお見舞いにきた病院と同じだ。
叔母さんと来た時は、車で来たからどんな道を通ってきたとかそんなのは見てもいなかったから何も心当たりがなかったけど、この外装と広さ……天井の高さは忘れられないで頭の片隅に残っていたらしい。
環から部屋番号も聞いていた。
──エレベーターでその階まで上がって、降りた。
部屋番号の横には、環の名前が一つだけ書かれていた。
一人部屋なのだろう。
「はーい」
扉をノックすると、久々に聞いた環の声がした。
そーっと手をかけてゆっくり開く──……。
「よっ……随分遅かったね、明日には退院だよー」
待ちくたびれた、というニュアンスを含んだ言い方で環は僕にそう言った。
「体調は大丈夫なの?」
「なんとか。君にも心配するという心が存在したんだね」
「失礼なやつめ」
「本当のことを言ったまでだもん」
はっきり言い返せないのが悔しい。
確かに誰かをこうして心配するなんて、珍しいなと自分でも今思ってしまったなんて言えない……。
「はい、これ買ってきた」
「おぉ。ありがとう」
僕は鞄から珈琲牛乳を出して、テーブルに置いた。
「あとさ……」
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