コメディ・ライト小説(新)
- Re: 彼女+僕=珈琲牛乳。 ~bitter&sweet~ ( No.23 )
- 日時: 2017/10/16 17:48
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
~2~
■:第1話「私という人間(1)」
そこそこ裕福な家に生まれた一人娘だった私は、今思えばとても大切にされて育てられたのだと思う。
まだ私たち家族3人がきちんと「家族」になっていたし、すごく笑顔が多い温かい家だった。
*
「ただいまーっ!」
「おかえり、環」
「お母さん! このあとひびちゃんのお家に遊びに行ってきてもいいー?」
「えぇ。 それじゃあこのお菓子をひびちゃんのお母さんに渡してね」
「はーい」
ランドセルをおろす前に、私はお母さんにそうお願いした。
ひびちゃんこと、響姫ちゃんは小学校が一緒の女の子だった。
緊張して、ずっと教室の隅でひとりでいた私にひびちゃんは話しかけてくれたのだ。 そこから意気投合して、私たちは所謂親友だったと思う。
「いらっしゃい、たまちゃん」
ひびちゃんのお母さんが私にそう笑いかけてくれる。 お母さんに手渡されたお菓子を渡して、家に上がると後ろの方でひびちゃんが膝に顔をうずめて鼻を啜って泣いていた。
「響姫、たまちゃん来たのにいつまで泣いてるの?」
お母さんがそう言っても、一向に泣き止まないひびちゃんに私も心配になって話しかけた。
「どうしたの?」
「あのね、ひびきね……来週引っ越すんだ」
「……──え?」
思わぬ言葉に私は息を呑んだ。
まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。
まだ小学生ながらに、その先の言葉は理解ができた。
「本当は響姫と、今週は泣かないで過ごそうって約束したんだけど、あとたまちゃんが何回かしかお家に来ないって思ったら、悲しかったみたい」
「うん……」
何に対して、私はうんと言ったのか──それは思い出せないけど、気がついたら涙が出てた。
あっという間にひびちゃんが、この街を出て行く日は来てしまって……。
「絶対に向こうに行っても忘れない」って約束をした。
……ただ私たち2人の約束の受け取り方が少しずつズレていたみたい。
私はひびちゃんが引っ越してから、誰とも口を利かなくなった。
そうしたらあっという間に学校で1人になってしまって、クラス替えをしてもその状況は変わらなかった。
ただ私の友達はひびちゃんだけっていう思いが強くなり過ぎてしまったらしい……。
きっとそのうち、って思っていた両親も私の様子を気にかけて中学受験を熱心に進めた。
新しい環境になれば、私のひとりぼっちも改善されるって思ったみたいだ。
……ここから、少しずつ私の家族が崩壊し始める────。
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- Re: 彼女+僕=珈琲牛乳。 ~bitter&sweet~ ( No.24 )
- 日時: 2017/10/17 16:22
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
■:第2話 「私という人間(2)」
「ただいま」
シンと静まり返った家にそう言ったって何も返ってきやしない。
そう分かっているのに、気づいたらいつもこうして「ただいま」を繰り返しているのだ。
私が中学受験を決意してから、2ヶ月とちょっとが過ぎた。
初めは週1で通っていた塾も一気に週3に増やした。 きっともう少し受験に近づいたら、毎日通うことになるのだと思う。
初めてお母さんは働きに出た。 お父さんの給料だけじゃ食費や光熱水費に加えて塾のお金が払えなくなったと言っていた。心配することは何もない……ただ塾に通って勉強を頑張ってくれたらそれがお母さんの幸せだとこの前言われた。
──勉強は嫌いじゃない。
今の私はいつも1人で、勉強は1人でするものだから。
頑張ればテストでいい点数が取れるし、お母さんにも褒めてもらえる。 お母さんが笑ってくれると安心する。
私が勉強を頑張れば頑張るほど、お母さんは嬉しそうに笑って大変そうに働きに出て帰ってくる。
……この頃からちょくちょくお父さんが朝まで帰ってこない日が続いた。
お母さんに聞いてみたら、お父さんよりも環が大切だと告げられた。
*
「環、勉強は楽しいか?」
久々に休日をお父さんと2人で過ごしていた。 お母さんは近くのスーパーで土日は働き始めた。
どこか行こうと言われ、勉強があるからいいと断ったらお父さんは心底驚いた表情を浮かべて私にそう尋ねてきたのだ。
「うん。 楽しいよ」
「本当に中学受験をしたいのか?」
「だって、お母さんが私のために頑張ってくれてるし……」
「お母さんじゃなくて、お前はどう思ってるんだ」
「私も……──」
受験したいって思ってるよ……──そう思っているのに言葉に出ない。
びっくりしてお父さんを見つめると、悲しそうな顔でお父さんも私を見ていた。
本当に私は、中学受験をしたいのだろうか。 ……中学受験って何のために?
──今更、こんな素朴な疑問が浮かんだ。
たかが1つのこんな疑問が私の勉強する手を邪魔し始めた。
そんな私の急な変化にお母さんが気づかないはずもなく、気がついたら私はお母さんに頬を叩かれて自分の手で叩かれたところを押さえている最中だった。
「あなた、この子に何か吹き込んだ?」
今まで聞いたことがないような低い声でお母さんは、お父さんに尋ねた。
「いや。 ……何も」
口篭るお父さん。 お母さんはお父さんまで怒鳴りつけて、テーブルの上に置いてあった新聞を破り捨てた。
家族3人が少しずつバラバラになっていく──。
ジンジンと痛む頬を押さえながら、私は静かに目を閉じてその事実を痛感していた。
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