コメディ・ライト小説(新)
- Re: 狐に嫁入り ( No.10 )
- 日時: 2017/08/13 22:30
- 名前: 一匹羊。 (ID: PGYIXEPS)
6話
「言わせてもらえなかっただけです……!」
聞いてないって(おこ)
「……その巨躯を隠していたのは結界術ですか? 我ら狐の目が弱いにしても、舐められたモノですね」
カガリがそう呟くと、煌々と身体が光りだす。
「おい狐! 勝手なことは……、っ!?」
蒼馬が噛み付こうとして、何かに怯んだように黙った。腕の中の舞花の気配が明らかに変わる。
「あなたは……ううん、あなた様は……?」
一息、吐いたカガリは何かキラキラしたものを纏って見えた。それはとても神々しく、その光に当てられた大蛇はどこか小さくなったように思える。
「消滅せよ、アオイトコヤミノオロチ」
力を入れてそう読み上げると、大蛇は内側から膨れ上がるようにして破裂した。
暫く。夜中の学校には静寂が戻り、蒼馬や舞花、カガリが放出していた光も収まった。舞花がふらふらと立ち上がり、私は戸惑いながらもそれを支えようとする。が、その手はやんわりと押し止められてしまった。
「まさか柵の結界を破られてしまうとはね……驚きです」
呆れ笑いしたカガリは指を一本、そっと立てる。ふわふわとした光が窓の方でたった。先程潜った穴のあたりで起こっているような。それを真剣な表情で見つめていた舞花は、スッと……カガリに土下座した。
「土地神様」
土地神!?
「なんで隠してた、土地神。分かってたら攻撃なんざしなかった……始めっからその神気出してりゃさ」
蒼馬まで何やら気まずげだ。ていうかこの狐ほんとに土地神なわけ!?
「うん、アイちゃん。さっき土地神様が使役なさったのは『言霊縛り』。名前を呼んだだけで命令できるのは高位の術者か——神様だけなんだ」
「さっきからさらっと心読むよね、舞花」
舞花は申し訳なさそうに眉を下げる。セメテナイヨ。
「あれ……僕言いませんでしたっけ?」
「聞いてない」
思い出すのは5時間ほど前のこと。
「僕は実は……先日助けて頂いた狐の」
「鶴の恩返しかよ。通報します」
「きいてぇ‼︎‼︎」
「言ってないじゃん!」
「言わせてもらえなかっただけです……!」
「その後言えたでしょ!?」
「伝えたような気がしていました。うっかり」
てへぺろ☆ と舌を出すカガリ、整った風貌をしているため様になるのがムカつくので殴りたい。殴ろう。
慌てたのは舞花だ。
「ちょ、アイちゃん! 不敬だから! 尊いお方だから……!」
「そんなの関係ない、私は殴りたい今、なう」
ところがカガリは爽やかに笑って「次期婚約者のワガママなんて、山より高く海より深い愛情で受け止めてみせます! さあ来なさい!」だなんて言うものだから殴る気さえ失せた。
「……蒼馬」
どこか呆けた表情の幼馴染に声をかける。
「妖怪だろうが悪鬼だろうが神様だろうがどーでもいいわ。こいつは! 私にとって! ただの! 不審者狐‼︎」
叫んでやると、蒼馬はお、おお……と狼狽えて、おお! そうだよな! と息めいた。
「というか狐! お前がこの山一帯を管理してたんだな!? なんなんだよあの悪鬼はよ!」
ああ、と答えたカガリは困り眉。
「僕のせいですね。どうも近年神格が薄れて結界術に支障が出ているようです。元々荒事専門の妖怪上がりですし」
荒事専門の妖怪上がり——。聞いて、私ははっと思い出す。
「御狐様! 御狐様だよね⁉︎」
蒼馬が視界の端で頷いている。カガリも正解という風に典雅に目元を緩めた。首をひねる二人のため、私は語り出す。