コメディ・ライト小説(新)

Re: 狐に嫁入り ( No.15 )
日時: 2017/08/27 20:23
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

8話

「おや、バレてしまった」
穏やかに笑うカガリの声と、
「はぁああああああー⁉︎」
そう叫ぶ私の声が重なった。

そのままの勢いで私は明日美に食ってかかる。
「なんでこんなに理事長が若いわけ? じゃなくて、違うじゃんどう見ても! もっとおっさんで顔立ちも全然……こう……凡夫! って感じじゃん!」
「いや、設立当時の理事長。写真、学校便りに乗ってる。後どうでもいいけど凡夫って言い方凄いね」
「なんで年齢が止まってるのさ! 悪魔か!」
ところが偏差値70は伊達じゃなかった。
「いや、この人があんたの言ってた狐なんでしょ。化けてるんだから老けない老けない」
「ハニー、それがこのひと土地神らしい」
「御狐様なのか。狐じゃないじゃん」
なんでこんなにファンタジー耐性高いんだろう、この秀才カップル。親友のあれだけ人間離れした場面を見せつけられても平然としてる修斗もおかしい。というか、人外の存在を前に普通にしてられる一般人がおかしい……ん? ここに一般人私しかいないんじゃない? 舞花は巫女とか言ってたし、蒼馬はああだし。
「ああ、舞花さんのことについては僕も気になりますんで後で説明してもらいますね」
「そこ2人は心を読むのをやめてほしい」
そんなわけなので、とカガリの姿が一瞬光り、小さく、丸くなる。そこに居たのは、
「あああ! 理事長!」
当代の理事長だった。代替わりしたように見せかけて同じだったなんてなんかずるい……! というか、この男は狐なのか妖怪なのか神様なのか理事長なのかはっきりしてほしい。全て事実である。
「ああ、だから地元じゃなくても守護が強いのか」
1人得心がいったように修斗が頷いた。どういうこと? と舞花が小首を傾げると、彼は指を一本立てる。
「理事長として土地神さんがこの学校を守護してるから。俺らも守護下」
「長い話の一部が終わってしまいましたね。理事長室は僕の部屋です。行きましょう」と何やら優雅に笑ってカガリは先に行くので、私たちは着いていくしかない。大丈夫なのだろうか、本当に着いていっても。こんな、空恐ろしい存在にホイホイと。
「あー……神格持ってようが悪さしようとしたら俺が容赦しねえから、安心し」
「アイちゃん。大丈夫だよ、守るから」
「舞花……男前になって……!」
ぎゅうと抱きつく。カガリが素早く振り向いた。
「あー! これだから最近の若い子は、先生校内での同性不純交友は許しませんよ! 僕も抱きつかれたいです!」
あっなんか大丈夫な感じだ。全然オッケーというか、不審者! って感じだ。私はカガリについていくことにした。
「めぐむんってなんだかんだちょろいよね」
なんか言った?

正直、扉が社に繋がっているくらいのことを想像していた。しかし、かちゃりと控えめな音を立てて開いたごく普通の扉は、調度品に満ちた賑やかな、普通に学校の偉い人が使っていそうな部屋に繋がっていた。
一応俺から入ると宣言して入った蒼馬がばつが悪そうにしている。私はその肩を幼馴染としてそっと叩いてやった。
「この野郎触るな」と振り払われたけれど、私は知っているのだ。蒼馬は縄張り意識が強いだけのうさぎちゃんだと言うことを……。
「いらっしゃいませ、僕の生徒たち」
にこり、と笑ったカガリもとい理事長は理事長ルック(?)から出会った時の姿に戻った。こうしていると本当にただのイケメンだ。なんでイケメンなのにこんなに残念なんだろう。世界は残酷だ。
「さて、ではまずそちらの聞きたいことからどうぞ」
待って、と手を挙げたのは明日美である。
「どうしても今しなくちゃいけないの?学校寄ってから帰るとしか親に伝えてないんだけど」
確かに時間は気になるところだ。明日美の塾が終わる時刻は確か9時。私もそろそろ帰らなければ親が心配するだろう。
「その辺は心配ありませんよ。この部屋の時間を止めてあるのでいくらここで過ごしても時間は9時を少し過ぎたくらいです。何ならパジャマパーティーで一夜を過ごしてもいいです。高坂さんと、ぶっふぉ」
「神的に婚前交渉は許されるのか?」
とうとう蒼馬が拳でいった。どうでもいいけど蒼馬ってやたらめったらカガリを悪者にしたがるよね。
「先生に暴力は許されるんですかぁ、痛い……」
「効くんかい」
思わず突っ込んでしまった。神でしょ曲がりなりにも。それにしても神様パワーはすごい。その調子でここで摂取したカロリーをなかったことにとか出来ないものか。そしたらお菓子大量に持ち込むのに。
「残念ながら出来ないんですよね。それから、蒼馬さんが来る時点で送り用の神使は用意していましたから、皆さん帰りは大丈夫ですよ」
殺される気一切なかったんだなあと思いつつ。カガリがパンと手を叩く。
出て来たのは五匹の狐だ……って、え?
「私が手当てしたコ!」
顔立ちといい尻尾が少し長いところといい絶対にそうだと確信する。狐は興奮したようにコンと鳴き、私の手に顔をすり寄せて来た。
「愛の力でわかるのかな……?」
「愛があっても普通わかんないだろ。全部白いぞ」
舞花が首を傾げ、修斗が冷静に突っ込む。
「そうそう、その子がお世話になりました。その様子を聞いて僕はあなたに惚れたんです」
「いやあんたの変化じゃなかったの?」
これで狐とカガリの様子が明らかに違う謎が解けた。そもそも同一人物じゃなかったわけだ。
「違いますよ〜、姿借りて現れたりはしましたけど。ほら電話の時です。その子はアカルです、仲良くしてやってください、僕の次に」
「アカルが求婚してたらよかったのに。いやアカルは求婚なんかしないか。普通に恩返しに来てくれるわ」
「なんで主人よりも高評価受けてるんですかアカル!」
撫でても噛みに来ない狐は初めてで、私は思う存分もふりたおす。嫌がらない。ううん可愛い。
狐をもふもふする私の代わりに口火を切ったのは蒼馬だった。
「お前、愛と結婚するとか言ってるが、具体的にはどうしたいんだ?」
核心から行きますね……?