コメディ・ライト小説(新)

Re: 狐に嫁入り ( No.21 )
日時: 2017/09/25 20:41
名前: 一匹羊。 (ID: UruhQZnK)

10話

「神罰一丁」
メグムは激怒した。

「知ってる」
「わーってんだよんなこと」
「はい、知っておりますけど……」
「だろうなと思ってた」
「むしろワンチャン狙ってた」
一斉に否定され、舞花が「あれれぇ⁉︎」と悲鳴をあげる。
「な、なんでぇ、ひどいよぅみんな」
くしくしと毛繕いするアカルを撫でながら私は首を傾げた。だって、ねえ。
「ぶっちゃけ巫女って感じじゃない」
と、言うのが私の感想だ。あくまで舞花は舞花。「ふえぇ」とか言いながら時折すっ転んで、打ち付けた場所をあざとく摩ってるのが最高に可愛らしい私の親友である。不思議な力を使ってはいたけれど、だから巫女ですはいそうですかとはいかない。
「あのな、いいか? 巫女ってのは神に仕える女性のことだ。神楽やら祈祷を行う、神職の補助役だな。近代以前はその限りじゃねえが、お前が昨日やったことは術師の真似事なんだよ。そんな力、巫女の持ち物じゃねえ」
「和風ファンタジーなら戦闘系巫女さんもあり得るんだろうけどね」
だから成績トップ組、どこからそういうの仕入れてくるわけ?
舞花は観念したように息を吐いた。
「そうだよね、そうくんがいるんだもん、そういうの詳しいよね」
因みに昨日の出来事は昨夜全員に共有されている。舞花が自分を『巫女』と言ったことも、舞花の持っていた鏡が大蛇は弾き飛ばし、そこから出てきた弓矢が大蛇を貫いたことも。
「私ね、みこじゃなくてみこなんだぁ」
……?
「どちらの管轄かが問題ですね」
「ハン、そうだと思ったぜ」
「あーね、把握したよまいぴー」
「そういうことならあの台詞もな」
例のごとくきちんと理解出来てないのは私だけってか。何それ早口言葉の一部? みこじゃなくてみこ。同じではないか。
すると、舞花はいつも持ち歩いている単語帳(開いているところはあまり見ない)を開いて『巫女』と書き付けた。
「この巫女じゃなくて」
『巫女』を塗り潰し、隣に『神子』と書き記す。
「こっちの神子……ね? わかる?」
「全然分からないけど小首傾げてるの可愛いから許すよ。説明して」
そのまま読めば「神の子供」だが、多分そうではないのだろう。キリストかな。
「私は神様からのお告げ……ご神託を授かることを代々賜ってきたおうちに生まれたの」
神に声なんてあるの? と茶々を入れたいところだが、残念ながら昨日から神と何度も会話してしまっている身、信じるほかない。たった1日で随分とファンタジー耐性が高くなったなと思う。
舞花が胸元をまさぐると、昨日と同じ鏡が出現した。それを大事に両手で持って、だからね、と舞花は続ける。
「そういう子供は不思議なものに狙われやすいから、この鏡をもらったんだよ」
なるほど。これで舞花の謎は解けた、と頷いていると舞花は大真面目な顔で私の手を握ってきた。
「私はね、初めてのご神託でアイちゃんのことを知ったんだ。私、高校に入るまではずっと虐められてた。ほら、ちょっと私……太ってるでしょ? それにのろまだし、中々仲間に入れてもらえなくて。でもね」
「ちょっと待った」
何ぞ大事なことを止めているような気もするが関係ない。私は聞き捨てならないことを聞いた。ああ、聞いたぞ。
「カガリって戦闘できたよね?」
アカルが尻尾をぴんと立てて振り返る。その愛らしい口元から、やや戸惑った神の声。
「ええ、はい。前も言った通り僕は元々荒事専門の妖怪ですから……あの、高坂さん?」
「アカルってあんたの使いだよね、それを助けた私にはなんらかの恩返しがあってしかるべきだよね」
「ですから、結婚を」
「だまらっしゃい。舞花をいじめた人間を許さない。神罰一丁」
「神の力を私欲に使うな!」
蒼馬が何か言ったような気もするが聞こえなかったので私はカガリに天罰を迫る。さあさあ。
「でっでもね!」
当の舞花に横入りされてしまったので私はとりあえず口を噤んだ。だが忘れない。忘れぬぞこの恨み。末代まで祟って余りある。
「高校を選ぶときに駄目元で土地神様にお伺いしてみたら、この学校でアイちゃんが待ってるって仰って……」
舞花の目元で透明な膜がきらめいた。
「友達が出来なかったらどうしよう、また虐められたらどうしようって私……不安だった……でも、会えた……アイちゃんに会えたよ……!」
「舞花……!」
「まいぴー!」
私たちはぎゅっとハグしあった。なんだ、ナイスなことする神様だっているんじゃないか……!
「さっきから僕の扱いひどくないですか」
さっきからじゃなくてずっとだけど。
ふふっと笑った舞花は、目尻をすっと拭った。
「神様に言われてたんだあ。アイちゃんが妖怪に狙われている。守護しなさいって。あの時のことだったんだねえ」
なるほど。だからこそ舞花は狙いが私だと分かったってわけか。
ところが、蒼馬が立ち上がった。
「……迷ったけど、修斗に言われて踏ん切りがついた。愛、お前が昨日狙われたのは……なんだよ」
アカルが蒼馬に飛びついていた。彼はその温厚な性格に反して白銀の毛並みを逆立てている。
「教えてはいけない」
「なんだよ部外者。俺が守り続けてきたんだ、明かすのも俺の勝手だろ。——愛。狙われたのは、」

お前が特異体質の持ち主だからで、これまでもこれからもずっとそれは変わらないんだ

その言葉を理解した瞬間、——
「いけない、高坂さん!」
全てが暗転した。