コメディ・ライト小説(新)

Re: 狐に嫁入り ( No.3 )
日時: 2017/07/09 19:03
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

3話
「あいつほんとお前が好きだな」
「はい?」

LINEのグループ通話。私は信用できる親友——舞花、明日美を入れて通話していた。以前助けた狐だと名乗る青年に求婚されたことを。因みに蒼馬のことは話していない。もし信じてもらえなかった時、頭のおかしい奴だと思われるのは私1人で十分である。と思ったのだが、舞花は「なんだかお伽話みたいで素敵だねえ」とぽわぽわ、明日美に至っては「リアリストのめぐむんがそんな下らない嘘吐くわけがないので信じる」などというとんでもない理由で信じた。信じやがった。マジかよ。私は未だに信じてないぞ。
「なんていうか、目の前で紅葉残して消えてさー。天然と言うか馬鹿というかすごいポジティブな狐だった」
『あのコンちゃんそんなキャラだったんだねぇ』
『でもめぐむんに噛み付いてたよね、思いっきり』
何故か感慨深げな舞花と呆れ声の明日美に、私は調子に乗って前のめりになる。
「でしょー⁉︎ だから私はあいつがファンタジー的存在なのは百歩譲って認めるけど、あいつがあの狐だなんてのは認めない!」
「酷いじゃないですか」
「はぇ!?」
『え、今の男の声何⁉︎』
『アイちゃん彼氏……?』
「違う!」
私は頭を掻きむしって叫んで声の主を鷲掴んだ。
『アイちゃんがこんなに慌てるの珍しーねー』
『いやまいぴーそんな場合じゃないでしょ。めぐむん、大丈夫? 不法進入?』
そう聞かれると私の手の中の……狐はくたんと頭を落とした。
「不法進入なのかもしれません。ごめんなさい。でも彼氏じゃありません、フィアンセなんで、んぐっ!」
狐の口から流暢に流れる日本語に、我慢ならず私は狐の顎から鼻面を握り締める。
「明日美。例の狐が部屋ん中入ってきた……」
親友は何処までも冷静かつ現実的だった。
『ストーカーじゃん、通報しよう』
「だよね、そうなるよね、じゃあ一旦通話切って」
「違います! 違うんです待ってください〜!」
『110番じゃないよ、地元の保健所にね』
「的確かつ冷酷な判断⁉︎」
「あ、それならかけ慣れてるから番号覚えてるわ」
「僕に逃げ場はないんですか‼︎ 妖怪虐待反対‼︎」
じたばたと暴れる狐を尻目に、番号テンキーを出した、その時だった。
『でもおかしいね。その時蒼馬いなかったの?』
『ふえ? そうくん?』
ついさっきの状況をぴたりと言い当てられて私は狼狽する。
「い、いたけど」
『何で言わないのさ。関係者だったんじゃん。てか求婚されたって、求婚だけで済んだの?』
「……なんで明日美そんなに鋭いの? エスパー?」
蒼馬の家のことまで言わなければいけないのか? いや本人の許可なしには、というか蒼馬は本当にこの白い狐を殺すつもりでいるのだろうか。白い狐は以前とは打って変わって大人しく、黙ったからと下ろせば行儀よく座ってたまに鼻面を私の手に擦り付けてくる。人型の時よりよほど可愛げがあって、殺すだなんて言ってる蒼馬に少し戸惑いを覚えるほど。というか、もし負けたら?人にも化けられる狐と闘って本当に蒼馬は平気なの……? 頭はぐるぐる回る一方で、つるりと求婚だけでは済まなかったことを肯定してしまった。
焦る私に、明日美は『やっぱり』との反応。さらに追い討ちをかけに来たのは舞花である。
『んーでも確かに、そうくんいつもアイちゃんのそばにいるよね』
「わ、私の側じゃなくて! 私の側に居てくれてる明日美の側にいる修斗にくっついてるんだよ!」
『あ、やっぱりそういう認識なのね。まあいいや、ダーリン呼んでるから後はそっちから聞いて。私は塾』
「えっ待って明日美」
『どもー、ダーリンです』
「うわああぁぁ勝手に修斗呼びやがった!」
聞き慣れた低くて柔らかい声がむっとした様子で『蒼馬のこと聞きたくないなら帰るぞ』と言う。嘘ですダーリン様教えてください。
「僕も将来的にはダーリンと呼ばれたいものですね、ハニー」
「どうしたの変質者。その姿で喋らないで変質者。夢が壊れる変質者」
もふもふをこよなく愛す私的にこの毛並みの綺麗なキタキツネの中身がアレだというのは耐えがたいことなのだ。
『本当に狐が喋ってるのか?』
理系らしく証拠を求める修斗のため、私はビデオ通話に切り替えた。
「お初にお目にかかります。カガリです!」
カメラの方こそ見ないが声に合わせて口が動いている。修斗のことだ、口の動きに合わせて誰かが声を当ててるんじゃないか? なんて言うに違いない、と思っていたのだけれど。
『ただの肉食獣がこんな大人しくしてるわけないな、信じるよ』
「君らカップル割と簡単に信じるよね」
『ハニーのベストフレンドの言うことだからな』
「冗談も割とわかりにくいよね」
天然だからねえと笑う舞花。ごめん、素敵だねの一言で信じたあなたのセリフじゃないと思うよ。
「それで、修斗。蒼馬のことって?」
『その前に今日の経緯を教えて。どんなことが来ても驚かないし言いふらしたりもしない。野崎、そうだよな?』
『もちろん!』
舞花が即答したのを聞いて、私は全てを話す覚悟を決めた。
途中カガリが口を挟もうとしたりして大変だったが、蒼馬の家のことまで含めて、全て話し終えた。勿論、今日の夜の校舎である出来事に関しても。30分くらいかかって、真っ赤な西日が頰にかかって来ていた。もうすぐ夜だ。
長い話を終えた安堵でふぅと吐いた溜息は、思いも寄らず修斗とダブった。
『大体分かった。けど……始まりは高坂とは言えど、親友になれたって俺は思ってたんだけど、何にも話して貰えてなかったんだな。今日のこともさ、危ねぇのに……』
しんみりと、少し寂しげな彼は、そのままの響きで告げた。
『あいつほんとにお前のこと好きだな……』
「はい?」
ガチトーンで返してしまった。
『あいつほんとにお前のこと好きだな』
「繰り返さなくていいです。有り得ないです」
『おまけに伝わってないのか……可哀想に』
「な、……ない愛は、つ、伝わらないって」
「僕の愛は有りますよ!」
「求めてない愛は受け取らない。で、何を根拠にその……蒼馬が私のこと好きだって言うのよ」
どもってしまうのは、それこそ幼稚園の頃同じ布団で昼寝したような仲の蒼馬だから。不本意ながら誰よりも見て来た異性だ。誰より知っている自信がある。思春期でさえあいつとの腐れ縁は途切れなかった……あれ?
『入学してから少しして、あいつの方から話しかけて来たんだよ。それも、俺が明日美と付き合い出してから。自分のクラスメイトの顔でさえ曖昧な時期に、他クラスの奴に何の繋がりもなく話しかけてくる奴って稀有じゃね? まあ俺も友達欲しかったからLINEで喋るようになって、その内気が合うなってことで高校でも駄弁るようになって。したら明日美の親友の高坂が蒼馬と幼馴染って言う。俺って勘良いし頭いいしさ、はっきり聞いたわけ、お前高坂の側にいたくて俺に近づいた? って。そしたら肯定されちゃうからもー俺ビックリ。熱烈過ぎねぇ? 好きなのかって聞いたらそんなんじゃないけど側で見てないとあいつは危険だからって言う。高坂が野生の狐助けちゃった時はこういうところかな? と思ったけど今の話ではっきりした。お前護られてたんだよ、蒼馬に。産まれてから今まで』