コメディ・ライト小説(新)

Re: 狐に嫁入り ( No.4 )
日時: 2017/11/15 19:26
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

4話

「僕じゃなかったら死んでますよ」
容赦無さすぎてワロタ。

夜中の学校と言えば、数々のロマンスやら怪談やらはたまたミステリーの舞台となる場所だが、まさか全て網羅するとは思わなかったなあと遠い目をしながら私は嘆息した。因みに、私が2人の男性(片方人外)に取り合われている、という現状自体がミステリーである。何が起こった。私が考えるに、あの狐が何を血迷ったか私に恋しているのは確定にしても蒼馬は違う。蒼馬はマジで自分の縄張りに悪鬼がいることが許せないだけだ。先程蒼馬の家に電話をかけたが、お母さんも「あらあらまあまあ〜」という感じではなくて、「どうしたのめぐちゃん、蒼馬に宿題でも聞けばいいのかしら?」という対応だった。息子の片恋相手への態度では断じてない。いつもお世話になっております。そういえば、あいつは昔から縄張り意識が強かった。ウサギかよってレベルだった。特に寝ているところを邪魔すると容赦なく叩かれた。目が開いているのかと疑うレベルの的確さで鳩尾を狙ってきた。やっぱあいつウサギだ。因みに鳩尾に入れられそうになったときは、正当防衛の名の元に遠慮なく金的させて頂いた。あいつとはそういう仲で、決して守る守られるだの、ましてや恋沙汰だなんて関係ではないのだ。それに私は、自分の身くらい自分で守れる。
狐も『男の決闘の前です。婚約者の側にいるのは無粋というもの』なんて言いながら消えやがった。殴る暇なかった。
「アイちゃん? ぶつぶつ怖いよ?」
「えっ声に出てた?」
「うん。思いっきりだよー」
「心配なんだろうけど、静かにな。これ一応不法侵入だから」
私たち—私、舞花、修斗は夜中の校舎裏にいた。蒼馬には来るなと言われたが、やはり心配なのだ。修斗が夜中私たちと一緒にいていいのかと明日美に聞いたところ、ここで行かなきゃ男じゃないから振ってたと返ってきた。頭のいいカップルはわからない。後、成績優秀なのはわかるし、塾にいるのわかってて電話した私も悪いけど、授業中に通話に出るのはどうかと思う。先生可哀想に泣いてたよ?
「にしてもどこから入るんだ。やるのは校庭なんだろ? 踊り場から普通に見えるから教室まで入らなくてもいいとしてさ、学校に入らねえと」
「そうなんだよー。あれ、あれ園田くんじゃない? 園田くーん」
「ちょっ、舞花、大声は……園田?」
同じクラスの男子だ。なんでこんな所にこんな時間にと、私は声をかける。
「どうしたの? 忘れ物?」
「う、うん。古典のノート忘れちゃって……君たちはどうしたの?」
園田、結構喋るな。教室は人見知りーって感じで大人しくしてるのに……説明しあぐねる私をぐいと押して修斗が頭を掻く。
「俺たちは夜の学校探検組。一緒に観てるドラマに似たようなシーンがあってな、真似したくなった」
「ふーん、楽しそうだね! いいと思うよ! ……でも入れないでしょ、普通にやっても。おいでよ、入れる場所案内してあげる。先輩に教えてもらったんだ」
そうして案内された場所は獣が掘った穴のように見えた。案外深く、壁にも亀裂が入っている。、
「うっわ、こりゃひどいな」
「だよね。古い校舎だからかな。でもこのおかげで明日当たっても大丈夫。感謝しなくちゃね」
園田は先に穴を潜り抜けると、廊下の窓から「大丈夫だよ」と言ってくる。カッターシャツは泥で汚れていた。舞花がおっとりと笑った。
「園田くん、サバイバルなんだあ」
「それはちょっと違うと思う。舞花、汚れない? 大丈夫?」
「汚れてもいい服着て来たもん! もしいざという時には、アイちゃんを守るのは私なのだー」
「は? 愛しい」
「はいはい、ラブラブなのは分かったから通ろうな」

「どこかが壊れましたね」
呟いた壮年の男は、黒い髪に黒い瞳、ネクタイにジャケットと平凡な姿で、座椅子に座っていた。とん、ととん、と指が飴色の机を叩く。
「悪鬼ならば結界に弾かれているからその可能性は薄いでしょうが……今夜は悪戯っ子が多いようだ」
がたり、男が立ち上がると、どこからともなく杖が現れる。それを手に取って彼は笑う。
「さて、愛の障害を乗り越えに行きますか!」

「あ、蒼馬はもういるぞ」
「そうくん和服だ。かっこいいー」
「……なんか校庭の様子いつもと違くない? あちこちに札が貼ってある」
「お前がさっき言ってた結界符とかいう奴じゃないのか。前準備してたんだろ。愛されてるな」
「だから私たちはそんなんじゃないって……」
そう言いながら、声が聞こえるよう窓をほんの少し開ける。ここは一番端っこの階段、校庭の2人から見える可能性は薄いが、なんとなく私たちは大っぴらには見えないようにしていた。
「何かうたってるね、そうくん。カグツチとか聞こえる」
「歌ってはないだろ……なんて言うか語ってる? アニメでよくある感じ。おおすげ、腕に火ぃついた。なぁ高坂、見ないのか」
私は修斗を無視した。だって何だか嫌なのだ。私の知らない蒼馬。私に教えてもらえなかった蒼馬がいるなんて、それをこっそり覗いているなんて……なんか、情けない。未だ朗々と響く蒼馬の声に耳を傾けながら私は叫んでしまいたい気分になった。

「やっと来たか」
! 窓にかじりつく。カガリは会った時の姿ではなかった。あの時は少し色素の薄いストレートの短い髪と目の少年、と言った姿だったが、今は流れるような白金のポニーテールに、目は金色。顔立ちだけはそのままに、ファー付きの羽織の下に洋服を着ていた。
「相変わらず物騒な人ですね。この結界符、僕じゃなかったら死んでますよ」
またそんな危険なことしてたのか、蒼馬……。
「人間に変化しなくてもいいんだぜ。本来の姿、見せてみろよ」
「僕はいつだってありのままですよ。で、ここに入れたのでもう認めてもらえませんか?」
辟易とした声とは裏腹に、カガリは楽しそうだ。
「そういうわけにもいかねぇ。お前が高位の妖怪ならこれくらいパスできる。高位な悪鬼なんて最悪中の最悪だ。ここで始末してやる」
「なら、って仮定ですね。どうやって確かめるんですか?」
「決まってんだろ」
蒼馬はビッと、何か白い紙を取り出し高く掲げた。
「追い詰めて尻尾出させんだよ!」
瞬間蒼馬の和服の袂から、白い紙がぶわっと躍り出た。その1つ1つがみるみる内に矢へと変わり、カガリに迫る。アニメを見ているようだった。危ないと思った瞬間、カガリは黙って片手を掲げた。瞬間真っ青な火が壁のように伸び上がり、矢を焼き尽くす。
「狐火……やっぱりかよ」
「あなたの破魔矢じゃ僕は、殺せないみたいですね?」
「あぁ……だから力を借りるんだよ!」
蒼馬は素早く手を9字に切ると、すと目を閉じて朗々と呼んだ。
「ハヤアキツヒコ! 悪鬼を払い清浄にせよ……急急如律令!」
返って来たのは静寂だった。一間、軽やかな笑いが響き渡る。
「いやー、まさか十神を呼び出そうとするとは思いませんでしたよ。そこまで行ったら流石の僕でも敵いませんからね、平伏します。ハヤアキツヒコは僕を払う気はないようですよ?」
「……俺なんか若造の元には降りなかっただけだっ。認めねえ」
「僕は貴方を認めますよ。明石蒼馬さん、あなたをライバルとしてね」
「そうだよ……もういいじゃん、蒼馬ぁ……やめようよぉ……」
「そうくん、汗ばんでる……」
「さっき呼んだの古事記に出て来た神様だったぞ……そんなの身体に入れようとしてあいつ大丈夫なのか? なぁ、止めた方が」
バサバサバサ! けたたましい音と共に、紙が舞い上がり……人が2人現れた。
「悪行罰示式神! すごいですね、蒼馬さん」
「何悠長に敵褒めてるんだ……はあ、こいつらは、お前を、逃さない」
「ええ。流石に」カガリの背中、青い炎が大量に燃え上がった。「厳しいです」
2人が炎とかち合った、その瞬間。
「何見てるの?」
「園田……? 帰らないの?」
私は慌てる。この状態を、園田に見せるわけは行かない。てててっと階段を降りた……背中から、声が追いかけてくる。
「アイちゃん。今日うち古典あったっけ」
目の前で園田が倒れた。