コメディ・ライト小説(新)

Re: 狐に嫁入り ( No.5 )
日時: 2017/07/26 23:44
名前: 一匹羊。 (ID: UJ4pjK4/)

5話
「戦略的提携だ」
何でもいいから早く助けろ!

倒れた園田の身体からみるみる伸び上がった影が、やがて大蛇の姿になる。何だこれは、園田は妖怪だったの? 変化していた?
影の中2つ青い目が瞬き、影がズルズルと伸び上がり、私に襲いかかってくる、2人は、駄目だ、間に合わない——!
「言ったよね、アイちゃん」
——え? 舞花?
「私がアイちゃんを、守るって!」
私の前に立ちはだかったのは、見慣れたぽやぽやした小さな女の子……舞花だった。手には鏡を捧げ持っている。大蛇は鏡に弾き飛ばされた。シュウウ、舌を出して威嚇。舞花はそれに負けじと鏡を掲げた。
「——あまねく精霊の皆々方、かしこみかしこみ申し上げる! 我が矢に宿られ、魔を破る光とならん!」
舞花は鏡の中からにゅるりと出てきた大きな弓を、ぱしんと小気味のいい音を立てて取る。光り輝く矢をつがえて、パッと離した。矢はまっすぐに大蛇に向かっていき、力強く刺さる。悲鳴。これ、一体……⁉︎
「舞花、どうしてそんな」
「アイちゃん下がって! ……っつ」
隣に踊り出た私を庇った舞花が、大蛇の巨大な尾に打たれてどうっと転がる。
「舞花!」
打ち付けたらしい腰に手を遣っていた舞花は、私の声にばっと顔を上げた。睨まれる。初めて見る、親友の険しい表情に私は怯えた。
「動いちゃだめ! あいつまだ、死んでない……!」
大蛇がゆっくりと鎌首をもたげる。両目がギラギラと欲を反射して、浅ましく光った。修斗はと目を走らせると、踊り場に既にいない。彼は合理主義だから、人を呼びに行ってくれたのかもしれなかった。なら心強いけれど、逃げたのかと思うと胆から冷える。
「舞花、逃げよう!」
「大丈夫……!」
よろけながら舞花は立ち上がる。だめ、動いちゃあいつの標的になる……!
「ならないよ」
私に剥かれた牙が、舞花の矢に弾かれる。え、私今喋ってない。立ち上がった舞花は私の前に立ちなおも弓矢を構えた。
「こいつはアイちゃんが狙いなんだ。理由は、今はわかんないけど……」
今は? いつかはわかるの? どうして舞花はそれを知ってるの?
「戸惑うのは分かるけど抑えて! 大丈夫、私はアイちゃんを守りたいだけの、巫女さんだから」
巫女……?

「悪鬼の多い夜だなオイ」
朗々と響く声。白い紙の嵐が大蛇を縛り上げた。
「蒼馬!」
「ありがとうございます舞花さん。僕も負けていられませんね」
涼やかに転がる声。青い火がその姿を照らし出す。
「カガリ!」
呼びながら舞花を抱き、窓から入ってきた二人の後ろに飛ぶ。隣にいたのは汗だくになった修斗だった。
「ごめん、呼びに行ってた」
ナイスでしかないよありがとうと言えば、穏やかな笑みが返ってきて怪我はないか? と案じられた。イケメンかよ。
「修斗!」蒼馬が何故か修斗に噛み付く。修斗はやれやれといった調子で笑った。
「はいはい何もしてませんよ」
会話とは余裕だな。舞花はぐったりと私に寄りかかっている。大丈夫だろうか、もしあの弓矢を使ったせいだとしたらと考えて胸が詰まった。
バチン! と盛大に蒼馬の放った紙が破れる。しゅるるる、と息を吐く大蛇。くぱりと大きく口を開くと揃った牙が鈍く光った。
「くそっ……狐! 戦略的提携だ! 狐火で動きを止めてくれ、俺の式神がやる!」
蒼馬の横顔を汗が伝った。