コメディ・ライト小説(新)
- あたしの第二の物語 ( No.12 )
- 日時: 2017/08/14 15:26
- 名前: ひなた ◆NsLg9LxcnY (ID: TaIXzkpU)
あたしの第二の物語
ひゅうひゅうと風を切る音。体をかすめる茂った青葉。湿った土のにおい。
身を低くして、最大限の速さで木々の合間を駆ける。本来なら歩くだけでも困難な木の根の這った足元も、なんてことはない。逆にそのでっぱりをかてにして、勢いをつけるだけだ。
前方に見えるのは、長年旅を共にしてきた友、そして仕事上のパートナー。その頼もしい背中との距離を絶妙に保ちつつ、さらにスピードを上げる。ごぅっと耳元で風がうなる声がした。
「いたぞ!」
突然野太い声が響き、はっとして後方に意識をやる。もちろん足は止めない。コートの裏に隠し持った武器を掴み、友の出方も伺おうと正面に意識をやって、
キラリと視界の隅で何かが光った。右手、遠方。そちらに目をやると、刺客の手から矢が放たれた瞬間だった。その向かう先は、正面の――
「レイ…!!」
「――っ」
くっと目を見開いて、あたしは食い入るように次の行に目をやった。本を持つ手に力が入る。
やがて切りのいいところまで読み終えると、あたしはしおりをはさみ、右手に本を持ったままベッドに仰向けに倒れこんだ。
あぁ、なんて幻想的。
森の中を駆けたことなんて、一度もない。まして刺客に追われているだなんて。それを共に支えあいながら、一緒に生きていけるパートナーがいるだなんて。なんて熱い物語なんだろう。こんな熱い関係のパートナーは私にはいないし、これからも出会える気はしない。でも、
本を持つ手はこんなに熱くて、こんなに胸は満たされている。
「はあぁ~」
天井に向かって思いっきり息を吐きだした。
あぁ、しあわせ。
「はるかー、ごはんよー」
リビングから聞こえるママの声。“レイたち”は、薪を焚いて、串に刺した川魚を表面から脂がにじみ出るまでじゅうじゅうと焼いて、まさに自然の御馳走を食べていたのに。
まぁ、でも。
「“こっち”も悪くないか」
身軽に体を起こし、あたしはリビングへと駆けだした。