コメディ・ライト小説(新)

水色のワンピース ( No.7 )
日時: 2019/07/02 22:04
名前: ひなた ◆NsLg9LxcnY (ID: U7ARsfaj)

水色のワンピース


 ズズッと紙パックの中でストローが音を立てる。私は顔をしかめて、右手のものを見下ろした。
「……さいあく」
 アスファルトに反射した光で、じりじりと体が焼けつくようだ。短い髪にもじんわりと汗が滲んでいる。手の甲で額をぬぐい、私は空のパックをゴミ箱に投げ捨てた。

 先に待ち合わせ場所に着いていた友人は、この暑い中なぜか喫茶店の外でぼぅっと正面を見つめていた。涼しげな水色のワンピースが、日差しに映えている。
「中で待っててくれてよかったのに!」
 お待たせも何もなく開口一番そう言うと、友人は目を丸くしてこちらを見て、にっこりと柔らかく微笑んだ。
「いいの。こっちのほうがこの服着て来たかいがあるから」
 へんな理屈、そう呟いて笑うと、私は喫茶店のドアを開けた。

 休日だからだろうか、それとも外が逃げたくなるほどの暑さだからだろうか、お店の中は予想以上に混んでいた。唯一空いていた4人席に通され荷物と共にどさっと腰を下ろすと、思わず大きなため息が漏れた。
「は~あっつい」
 半袖のシャツの襟もとでパタパタとあおぐ。急に涼しい場所に来たせいで、さらに汗が噴き出しているような気さえする。対して涼しげな表情の友人は、静かに腰を下ろすとこちらを見てふふっと声に出して笑った。彼女の真っ白な肩も、汗ひとつかいていない顔も、なにもかもが”夏“からかけ離れていた。
「信じらんない。なんでそんな涼しい顔していられるの?」
 そう問うと、友人は困ったように眉を下げた。
「暑い分涼しい格好してきてるもん。むしろ冷房が効きすぎているところの方が寒くて苦手かな」
「涼しい格好だったら、こっちだって半袖短パンだよー。何この差~」
 はぁっともう一度ため息をついた勢いで背もたれに肩を預けると、突然上から聞き覚えのある低い声が降ってきた。
「あれっ、お前なんでこんなとこにいるんだよ」
 ハッとして起き上がると、すぐ脇の通路にがたいのいい青年が立っていた。こちらを見て目を丸くしている。私は無意識に姿勢を正し、先ほどまで仰いでいた襟元を手で押さえつけた。
「そっちこそ! 私たちは昼ご飯一緒に食べようって約束してただけだよ」
「ふーん」
 そう言って青年はふと左に視線を移す。その先には、お人形のようにちょこん、と座る、かの友人がいる。大きな目をぱちくりさせて突如現れた青年を見つめている。涼しげな、水色のワンピース姿である。
 思わず顔がひきつった。
「と、とにかくあんたも早く席とらないと埋まっちゃうよ!」
 慌てて言ったのがばれたのか、彼は小さく吹き出して、突然私の短髪をくしゃっとかきまぜた。心臓が、はねた。
「もう席無いんだよ。悪いけど、ここ座らせてもらうぜ」
「えっ」
 戸惑っている間に、彼は隣の席に腰を下ろしている。そのまま何事もなかったかのようにメニューを開く彼を見て、口の中でもごもごと可愛くないセリフを吐いた。
「ていうか何、あんた1人なの」
 メニューから視線を外さずに、彼が答える。
「ん。どっかで飯でも食おうかなと思ってうろうろしてたら、外からお前が見えたから来てみた」
 ぼっと火が付いたように顔が熱くなる。目を伏せて正面を向き、かろうじて「わ、私たちの女子会邪魔しに来ただけじゃん」と憎まれ口をたたく。ふふっと微かな笑い声が聞こえて目をあげると、正面にいる友人がやはり涼しげな様子で座っていて。こちらを見て微笑む目は、とてもあたたかだった。