コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.115 )
日時: 2017/09/10 21:43
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

40.雨粒。



それから少し時間が経った後、神社へと向かった。おそらく開催直後だと混んで入れないだろうから、少しだけ遅れていこうということになったのだ。

「最初はどこ行くん?」

歩きながら、ひかりがふと思い立ったように言うと。

「かき氷ー」
「え!イカ焼きが良いよ、夏音ちゃん!」
「俺らはたこ焼き…」

見事に食い違う意見に沙彩とひかりは呆れる。実は、多分こうなるだろうと思ってひかりは聞いたのだ。……そして、それを聞いた瞬間ひかりがそれを図ったんだなと分かったのは沙彩だけだった。

「ここは沙彩ちゃんに決めてもらおう!」
「焼きとうもろこし」

それで良いのなら、と沙彩は即答する。実は沙彩はとうもろこしが好き。

「……ここで選択肢以外かよ」
「あら、文句あるんだったら俊と一緒にたこ焼き食べとけば?」
「まーまーまーまーまー!!秋本くんと沙彩ちゃんって何で仲悪いのー……」
「別に私は嫌味じゃないし。思ったことをそのまま言ったのよ」

もう少し素直になった方が……とどこか遠慮しながら言う夏音に首をかしげる沙彩。

「まぁとりあえずとうもろこし食べてー、8時から花火始まるからそれまで色々食べよー!所持金の使い方には注意してねー」

夏音に言われると一斉に皆が財布を確認する。中学生の所持金、大して大金を持ってるわけではない。精々持っていたとしても10000円以内だ。
それに、夏音も自分で言っておいて殆どお金を持っていない。……持っていないからこそ言ったのかもしれないが。毎回毎回文房具に使っているせいでいつも嘆きながら沙彩にお金がないーと訴えるのだ。

「うちはあんまりとうもろこしは好きちゃうから……遠慮しとくわ」
「……そういえば…」

さっき初めて話したようなものだから、と俊が問う。

「夕凪さんって何で関西弁?」

かなり唐突だが、そう聞いていた。
そういわれてみれば、実は沙彩も知らない。関西出身であることは知っているが…。


「うちは兵庫県出身で…それで中学からここに引っ越してったから。標準語なんか突然喋れへんし、関西弁でいじってくる奴らは全員ほっとく」
「あー…あったね、そういうことー。あたし、ひかりちゃんと1年の時同じクラスだったから知ってるよー」

他人に殆ど興味がないひかりは、別に何を言われても平気だったそうだ。

「けど……沙彩ちゃんはうちが陸上関係で色々言うても最終的には友達になってくれたし関西弁に関しても何も言わんかったし。その方がええわ」

まさかその子が不登校になるとは思わんかったけど、と冷やかすように言う。

「……まぁ色々あるの」
「色々ってなにが?」
「あーあーあーあーあー!!!とうもろこし買いに行こう!!」

ひかりの声を聞いた瞬間、夏音が思わず大きな声で誤魔化す。
……楽しい夏祭り、せっかくなんだから。今だけはあのことを忘れて、楽しんで欲しい――そういう願いで。
そして誤魔化しの笑いを浮かべて、夏音はひかりを引っ張って歩く。

「だからうちはとうもろこし食べへんって……」
「………え?あ、そっかー。ごめん…」

考えることに夢中になっていたせいで反応が遅れる。

(夏音……気遣ってる?)

早々と気付いた沙彩は申し訳なさが浮かんでくる。自分が楽しむために人を苦しませるのは嫌だ――。


「夏音。私のために色々、気遣いとか要らないからね」
「……別にそんなつもりじゃ…」
「何でこういうときだけはぐらかすのよ……とにかく、私も…あの質問以外になら答えられるはずだから。私のせいで迷惑かけたくないから、夏音は自分のお金の心配でもしておいて?」
「……うん…」

お金の心配しておいて、と言ってうん、と返事するのはどうかと思うが。なんだか面白くなって沙彩はくすりと笑いを浮かべていた――。




その時、とうもろこしを食べている沙彩の腕に――細い水が、落ちていくのをはっきりと見た。


「……あれ?雨…―――?」