コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.126 )
- 日時: 2017/09/16 00:25
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
43.夏祭りの終わり。
沙彩たちが屋台を回って金魚すくいだったり食べ物だったり、そうして過ごしているうちに。
「あー、もうそろそろ花火だよー」
やっとテンションがいつも通り――おそらく花火が始まったら高くなるだろうが、夏音がいつも通りの口調で言う。
その声で5人が時計を見ると、19時55分――花火が打ち上げられるまであと5分だった。
「もうそんな時間かぁ…」
「花火は20分間だよね?それ終わったら解散ねー」
この夏祭りの最後を締めくくる花火大会。たったの20分という短い時間だが、割と有名なものだ。とにかく種類が沢山、そして色が沢山で、かなり凝った作りになっている。
菊花火や牡丹花火、スターマインも3回、星形やハート型などもあって20分とは思えない充実したプログラムになっているのだ。それに毎年違うから、それも楽しみの一つとなっている。
(花火なんて見るの……初めてだな)
沙彩は小学校の時も両親が共働きだったためそういう行事には殆ど参加したことがなかった。おまけにこの夏祭りは小学生以下は保護者同伴というルールがある。家からも殆ど見えないので、沙彩にとっては初めての花火見物だ。
「始まるよー!」
またハイテンションが戻ってきた夏音が空を見上げると共に、沙彩たちも見上げた。
ヒュ~…という音が、花火が上がる前の線が見えてから静かに鳴る。
花火が花開くのと、それに合わせたバーン、という音とにはあまり時間差がなかった。つまり、ここはかなり花火打ち上げ場所から近いということだ。
「…ここの花火、綺麗やな」
「……私は初めて見た」
「初めて!?……まぁええわ、うちが住んでたとこは花火大会なかったし……ほんま久しぶり」
ひかりは次々と打ち上がる花火を優しい目で見つめていた。思わず沙彩もそんな雰囲気になってしまう。
(綺麗……)
声に出さずとも沙彩は花火を見つめながら心の中で呟いていた。スターマインにはいると、小さな花火が連続で何回も何回も花開き――ボリュームのある綺麗な1つの花火になる。それに個々の花火にもグラデーションやら何やらの工夫が施されていて、統一感のある花火だった。
花火をほぼ初めて――そんな沙彩には、これがとても現実のものと思えないほど美しく見えた。
○**○
「はぁ~!すっごい綺麗だったねー!」
「ほんまやばかったわ!有名とは聞いてたけどこんなに綺麗やったなんてなぁ…」
「また来年も行きたいね!」
夏音とひかりと千春が盛り上がっている隅っこで。
「……沙彩」
俊に呼ばれる。ゆっくりと振り向くと、悠夜も立っていた。
「…なに?」
「少しは学校に――じゃなくて、悠夜の話――聞こうと思うようになった?」
そう言って気を遣ってくれる俊に何とも言えない気持ちになる。嬉しいような、そして申し訳ない気分。自分のことを気遣ってくれる優しさを感じながら、自分が気を遣わせてる申し訳なさが入り交じる。
けれど、沙彩はさっき俊が――悠夜は悠夜なりに心配している、という類のことを言ったことを思い出す。
「……さぁ?」
本当のことは言えず、本心はそっと隠してわざと曖昧な答えを残す。
「本当ブレねぇよな、月島って……」
「ブレないのはあの子たちもでしょ?」
沙彩はそう言って夏音たちのほうを見る。まだまだ花火の話題で盛り上がっている。しかも周りから見ても相当テンションが高いようで、何人かのこの夏祭りに来た客が訝しげな視線を送っているのも見えた。
「月島も混ざればいいのに」
「あら、私があんなテンションについて行けると思ってるの?」
「……それは俺も無理」
俊の言った言葉のおかげか、少しだけ悠夜への対応も丸くなった気がするのはきっと気のせいではないはず。
「――沙彩ちゃんも楽しいと思ったよね?今日!」
何らかの話がそろそろ終わりという頃なのか、夏音が急に話題を沙彩に振ってきた。
一瞬沙彩は戸惑うが、少しだけ微笑んで返す。
「――そうね。楽しかったわ」
『第3章』end…