コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中(=゚ω゚)ノ』 ( No.13 )
- 日時: 2017/07/24 11:37
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
07.期待。
『――しまさん?月島さん?』
森の中に響く声。沙彩はいつの間にか失った意識を取り戻す。
目を開けると、一人の女の子が沙彩の方を不思議そうな顔で見ていた。……当たり前だろう、顔は涙によって濡れ、目は赤く腫れた状態で森の中で寝ていたのだから。
――でも、誰――?
思うように声が出なくて、唇だけ動かしていると。
『夏音、だよー。貴女、同じクラスの……月島さんでしょ?こーんな森の中で何してるのー?』
――これが、沙彩と夏音が知り合ったきっかけ。
『別に、私は――』
『何もないよ、とか言わないでよー?こんなところでそんな顔で寝てる時点で何かあったこと丸見えなんだからさー…まあ、月島さんが辛いことなら話さなくても良いけどね』
夏音は今と変わらない気だるい喋り方で、沙彩が「何もないよ」と言いかけたのを遮る。
『……まぁ、今夕方の5時だから……早く帰った方が良いよー?私だってここで遊んでて帰ろうと思ったところで偶然貴女を見つけたわけだし、何なら一緒に帰ろうよー』
ふわぁ、とあくびをしながらなおも夏音は気だるく喋る。
……正直、こんな不安定な状況に独りで帰れる気がしない。沙彩は夏音と一応幼馴染みの関係――幼稚園からの知り合いだが、殆ど話したこともなかった。しかし夏音はどうやら親しく接してくれて居るみたいなので、言葉に甘えて一緒に帰ることにした。
『幼馴染みなはずなのにこうやって話すの、初めてじゃない?』
『そ、うだね……私、話しかけられたとき……誰なのか分からなかった』
『まぁ中学入ってからも話したことなかったし、仕方ないよ』
それでもやっぱり、覚えてくれていなかったのは寂しかったのか、夏音は目を伏せながら話す。
『ご、ごめん……』
『でも、今日からは仲の良い幼馴染みってことで良いよね!……沙彩ちゃん!!』
『……よろしく、夏音』
『じゃあさ……友達になったし、沙彩ちゃんが話してくれるならで良いんだけど――』
沙彩は、一拍おいた夏音の様子に少し緊張を感じる。
……多分、聞かれるんだろうと思って。
『――何が…あったの?』
沙彩は手を握りしめて、ゆっくりと父と母のことを夏音に打ち明けた。
○**
それから、1週間。
沙彩は学校へ行かず、しばらく家に引きこもっていた。ショックが大きすぎたんだろう、音沙汰もなかった。
そんな中。それを見かねた――1年の時からずっと担任である佐野が、怒りと共に沙彩の家に訪れたという。
『貴女が学校に来なくて、皆心配してるんですよ!!学校に来なさい!』
……佐野は熱血な女教師、というレッテルが貼られていた。また、学校を風邪以外で休むことを嫌った、そんな教師だった。あくまでも当時、だが。
『過去を振り切るのも、大事なことでしょう!?』
『……っ』
インターホンから聞こえてきた怒声に、沙彩は苦痛を感じた。
まるでそれは、「亡くなったことに対していつまで悲しんでいるの」という意味が込められているようで――沙彩はその後、佐野を家の前から押し出したらしい。
(――今更先生……貴女が沙彩ちゃんを戻せるわけないよ。沙彩ちゃんの思いを一番知らなかったのは、先生なんだから)
『教師の鬱陶しさってものは―――』
多分、その時に連想したのは佐野のはず。
夏音は薄く笑みを浮かべて、悠夜のほうを見ていた――
(貴方なら、できるかもしれないけどね)
本屋で出会い、夏音を呼んで「なぜ沙彩が不登校なのか」を聞いてきた悠夜になぜか期待をしてしまったのだ。
沙彩は、自分に直接的な質問をされることを嫌う。また、直球で言われるのも嫌いだ。
だから、他に知ってそうな人に理由を聞く――簡単に言えば沙彩に対して配慮した悠夜に。もしかしたら理解者になってくれるんじゃないかと期待してしまったのだ。
「まあ、難しいと思うけれど」
自分にしか聞こえない小さい声で、夏音は悠夜を横目で見ながらぼそりと呟いた。