コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.130 )
- 日時: 2017/09/17 12:01
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
45.変わるきっかけに。
(謝りたい…こと?)
夏音は沙彩がなぜ学校に来ないのかを知っているから、その謝りたいことは――もし佐野に悪気があるのだとしたら。あの時、「過去を振り切るのも大事なこと」と思わず叫んでしまった言葉に対して反省しているのであれば。その謝りたいこと、というのはあの言葉に関してなはず。
「先生……謝りたいことって?」
「……何でもないです。こちらの…話ですから」
一瞬だけ唇を噛みしめた佐野の様子を見て、千春は首を傾げるだけだが夏音は胸が締め付けられる思いを感じた。
(悪いって思ってるの……?)
2学期初日からもやもやする思いが夏音の胸の中に渦巻いていた。
○**○
「私はバスケあるから……じゃあね、夏音ちゃん!」
「……うん。また明日ー」
今日は半日授業のため、帰るのは早かった。……というのも、夏音は昼からもある文芸部をサボるから早く帰るわけだが。
「おーい桃瀬!」
「うわっ……晴樹先輩…」
何だか気持ちが落ち着かなくて早めに帰ろうとすると、晴樹に呼び止められる。
「はぁ……いつになったらお前は文芸に力入れるんだ!」
「知らないですー。てか、今日は用事あるので帰らせて頂きますー」
「え、ちょっと待って」
急に落ち着き払った声になった晴樹に、振り向きもしなかった夏音が思わず晴樹のほうを見る。
「……月島ちゃんのこと?」
「…………」
ピンポイントで当てる晴樹には超能力でもあるのだろうか、はたまた夏音が分かりやすかっただけなのか。夏音が押し黙っていると。
「――でも月島ちゃん、なんか明るくなったよね」
晴樹の言葉に夏音が物珍しそうに彼のほうをじっと見た。
他人に興味がないはずの彼がそんなことを言うのなんて中々ないから。
「夏休みの間に何回か本屋で会ったんだよね。何があったのか知らないけど……口数が多くなってた気がするんだよ」
その「何」というのは多分夏祭りのことだ。あの夏祭り以来、よく話すようになったと言うこと。
夏祭りが沙彩にとって、少しでも変わるきっかけになったということ――。
「ありがとうございます、先輩。……良かった」
「良かった?」
晴樹が聞き返すが、夏音は走って本屋の方へ向かった。
「あ、おい!部活は……」
「今はそんなところじゃないんです!話なら明日聞きますからー」
話なら明日聞く……口ではそう言っているが多分明日も聞き流すんだろう。晴樹は一つため息をついて、全速力で本屋へ向かう夏音を見送る。……意味もなくサボるときもあるから、それよりかはまだマシだろう、そう思い晴樹は文芸部室へと向かった。
(夏祭り……皆で企画して良かったー…!)
事情を知らない晴樹でも、沙彩が何となく嬉しそうだと言うことが分かったくらい沙彩にとって変わるきっかけになったのだ。
夏音は本屋に向かって走りながらそう心の中で呟いていた。朝のもやもやする気持ちは少しだけ晴れてきたような、そんな気がした。