コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.134 )
- 日時: 2017/09/17 15:05
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
46.それぞれの気持ち。
「―――あれ?沙彩ちゃん……いない?」
本屋についていつものテーブルの方を見ても、沙彩が好きな恋愛小説・ファンタジー小説コーナーを見ても。沙彩の姿はどこにもなかった。
「………」
どこにも居ないことを確認してから夏音は本屋を出て、沙彩の家へと向かう。本屋にいなければ家に籠もっていることが殆どだ。時間的にも食品の買い出しに行っているという可能性も低い。
沙彩の家に着くと、夏音は恐る恐るインターホンを押す。玄関から出てくるか、自分の部屋にいるなら窓から覗くはずだ。夏音はインターホンを押した後は沙彩の部屋の窓をじっと見ていた。さすがに、彼女も居留守を使うような人ではない。
――だが、一向に沙彩は姿を見せなかった。
「……嘘……本屋でも家でもないって、どこー……?」
夏音の呟きも、静かなこの通りには寂しく消えるだけ。この通りに少しでも不気味さを感じるなんて夏音にとっては初めてだ。
もしかしたら本当に食品の買い出し……という可能性もあるかもしれない。そう前向きに考え、夏音はしばらくその一帯で沙彩を待っていた――。
○**○
中学校、体育館裏――。
「………」
制服のリボンを外した状態のブラウスとスカート……そんな状態で体育館裏に立ちつくす――沙彩が居た。ずっと無言で学校を見上げ、部活だと騒ぐ男子たちや帰宅部の生徒たちを懐かしそうな目で見ていた。
「――こんなところで何してるんだ?」
「っ!?」
ぼうっと立っていると、突然背の高い女性――といってもこの中学校の制服を着ている、おそらく3年生に声を掛けられた。
ばっとその先輩を見てみると、沙彩を見ていたヘーゼル色の鋭い目が一瞬驚いたように見開く。
「……月島?なんでここに…」
「…上永さんこそ……」
上永琴子――この中学校の図書委員長で、沙彩の1年先輩…3年生だ。
不登校になり始めた時に本屋で知り合い、それ以来本の趣味は合わない物の何回か話したりしている。
すると琴子の後ろから一人の影がひょっこりと表に出た。
「………」
「………」
突然現れた影に沙彩も、ひょっこり現れた――沙彩と同じくらいの年齢の女の子も硬直する。
「月島……って、月島沙彩さん……ですか…?」
するとその子が女の子らしい高めの声で途切れ途切れに聞いてきた。
「…え……そうですけど、何で知って……」
そこで沙彩は気付く。この女の子は涼風中学校の制服とは違う、水色のラインが入ったセーラー服を着ていることに。考えられるのは、転校生――ということだ。制服が届いていないから違う物を着ていると考えれば何となく分かる。
「こんにちは…。私、この2学期から2年3組に転入します……高宮香澄と言います…。引っ越しとかで準備が遅くなったので、来週からになりますが……。3組の不登校児さんと聞いて…月島さんのことを知りました…。驚かせてしまってすみません…」
ミルクティー色の下ろした髪をふわっと揺らしながらぺこりとその女の子――香澄が頭を下げる。
「放課後に学校を見て回っていたらしい。それで迷ってたみたいだったから案内したんだが……偶然だな。ここで会ったのは」
何も体育館裏まで案内することないのに、と沙彩は心の中で毒づく。人と会いたくなかったから体育館裏に来たのに。……そもそも、なぜ学校まで来たんだろうか。
夏祭りのことを思い出していると、無意識に学校まで足を運んでいたのだ。全く理由など分からない。
「――実は私も不登校の時期があって……学校から飛び降りるほど思い詰めていたので……月島さんの気持ち、分からなくもないです…」
「………え?」
香澄の思いがけない一言に、未だ困惑気味の沙彩はさらに戸惑いを隠せなかった。