コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.139 )
- 日時: 2017/09/18 23:04
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
48.一人にさせて。
「―――…それで、彼が私の様子を見に来なかったから私が自殺しようとした…って責任を負ってるみたいなんです…」
初めて聞いた悠夜の過去に沙彩は唖然とするしかなかった。琴子も同じように驚いた顔をしていた。
(だから…秋本は私を頑張って連れ戻そうとしてるのかな)
前疑問に思ったのだ。どれだけ沙彩が怒ってもめげずに学校に誘ってくるのはなぜなのかと――。まさかそんなに思い過去があって、その自殺しようとした本人から聞けるとは思っても見なかったけれど。
「……月島さん。今、辛いですか…?」
話し終わると、香澄は沙彩にそんな疑問をぶつけていた。先ほどの話を語った彼女から聞くと、そこら辺の人とは違う重みがある。実際、彼女も切なそうな表情だ。
「もし月島さんが少しでも学校に行くという気があるのなら……楽しいという気持ちを少しでも持っているのなら……学校に行くこと、考えてみてもいいんじゃないでしょうか…?」
確かに楽しいという気持ちはある。あの夏祭りのこともそう、最近あまり辛いという気持ちを実感したことは――ない。なかったと思う。
「月島。私からも口を挟ませてもらうが……精神的に辛いことがあったらその時は逃げていいと思う。だが、君も一生不登校になろうと思って学校に来なくなったわけではないはずだ。だから…今の感情を大切にすればいいんじゃないか?」
沙彩は2人の視線を受けて思わず俯いてしまう。急にそう言われても整理できないし、自分でも考えられない。
「――すみません。私……少し考えさせてください」
沙彩は2人に向かって少しだけ頭を下げ、失礼しますと言って体育館裏から一番早い道を使って家へと走っていった――。
○**○
静かな道に足音だけが響く。そのままずっと行ったところで。
「……沙彩ちゃんー?」
角の所に夏音が立っていた。何と悪いタイミングだろうか……というのを顔に出さないようにして沙彩が至って普通に聞いてみる。
「…なにしてるの」
「なにって、晴樹先輩に聞いたんだよ?沙彩ちゃんちょっと明るくなったなぁってー。夏祭り企画して良かったって喜びを伝えたかっただけなんだけど……沙彩ちゃん、どこ行ってたのー?」
夏音の純粋な疑問に沙彩は言葉を失った。今、「学校に行ってた」とは言えないし、かといってスーパー…というのも逆方向だ。公園…だなんて不自然すぎるし、第一いつも察しの良い夏音にだったら見破られてしまうかもしれない。
「…………学校」
「…え?学校…?」
沙彩の思いがけない言葉に夏音が唖然とする。不登校児の沙彩から学校に行っていたなんて言葉が出るなんて予想も出来ないだろう。当然の反応だ。
しばらく、沈黙が続くと。
「……ちょっとでも……変われたんだ、ね」
それなら学校行こうよ――なんて言葉は言わず、夏音はそう言っていた。
「本当に……良かった……」
いつもの気だるい口調ではなく、夏音は心の底から嬉しいというように微笑んだ。それが自分のテンションと全く合っていないからか――何となく顔を見せたくなかった。
「……一人にさせて…」
かすれた声で沙彩が言う。え、と夏音が思わず声を出すが、沙彩は俯きながら早足で家の中へと入っていった。ドアが無防備に閉まる音がこの空間に響く。普通なら気にも留めない音なのに、夏音はそれが取り残されたような、突き放されたような……そんな乾いた音に聞こえた。
普段なら大体の事情を把握しているから気に障ることはなるべく言わないようにしているのだが、今回……何か気に障ることを言ったのだろうか。
沙彩と琴子と香澄――その事情を知らない夏音には何も分からない。なにが彼女にとって嫌だったのかも、どうして一人にさせて――と言ったのかも。