コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.140 )
日時: 2017/09/19 20:47
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

49.封筒の中身。



「…はぁ……っ」

呻き声にも聞こえるため息。電気が落ちて、音を立てる物が沙彩くらいしかないこの部屋には大きな音として聞こえた。
なんであんなにタイミング悪く家の近くにいるの――という気持ちよりかは。


(なんで私、こんなに心弱いの……)


その思いの方が強かった。不登校を逃げだ、とそこまで関わりのない人物から言われたのも、急に2人から色々聞かされたのも負担になってしまったが、それだけで2人に顔向けもせずに家に逃げてきて夏音まで突き放してしまうなんて。
もう一つため息をついて、壁に背中を付けてずるずると落ち、そのままへたり込んだ。

外からの光も入って来づらくなる。光のない部屋は今の沙彩の気持ちを表しているよう。

さすがにいつまでもこうしちゃ居られないと思い立って電気を付けようとすると。ふと、シェルフに立てている両親の写真の近くに、小さな花柄がプリントされた――可愛い封筒が置いてあることに気がついた。急いで電気を付けて、沙彩はその封筒のシールをゆっくりとはがしてみる。


――あけると。封筒と同じ、小さい花柄がプリントされた2つ折りになっている便せんが出てきた。
それには……「沙彩へ あなたの父母、拓哉たくや彩名あやなより」。そう記されていた―――。



○**○


「……なんで……」

その場に立ちつくしたままの夏音。理由も分からないこの状況、どう動いて良いのかも分からない。
沙彩に声を掛けるべきか、今はそっとしておくべきなのか。こんなこと聞けるはずもなく、夏音はただ迷っていた。
どうしようかと困ったとき、いつも動けないのは誰にでもあることだ。



「―――あの…」
「へっ!!?」


突然、女の子らしい高い声が後ろから聞こえ……夏音は思いっきり声を出して驚く。振り向いた先にいた彼女は自分とは違う制服を着ているが……年齢は多分中学生ぐらいだ。

「……私、来週から貴女と同じ学校…2年3組にに転入させていただきます、高宮香澄と言います…。失礼ですが貴女の名前、伺っても宜しいでしょうか…?」
「………も、桃瀬…夏音です。あたしも3組です…」

事情を知らない彼女に心配を掛けさせないようにいつもの気だるい声で返答――しようと思ったが、夏音は彼女も同じく何か予想外の事態が起こった……というような顔をしていることに気付く。
もしかしたらこの高宮さんという人は沙彩の事情を知っているかもしれない…という直感。

「桃瀬さん…。ここが月島さんの家でしょうか…?」
「……うん。あのさ、沙彩ちゃんのこと知ってるの?」
「先ほど体育館裏にいたところを…学校案内をしてもらっていた先輩と一緒に会いました。先輩は用事があるらしくて帰ってしまったんですが……月島さん、今どこでしょうか…?」

香澄は控えめにそう言っているが表情は真剣だった。この人ならきっと何か――そんな期待を胸に、意を決して相談してみる。


「沙彩ちゃん、一人にしてって言って家の中に入っていっちゃったんだ……香澄ちゃん、どうしたらいいかな……」


けれどそんな簡単に答えが出るはずがない。2人は夕暮れの中、悩み続ける――。