コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.146 )
- 日時: 2017/09/22 22:02
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
52.本音。
「やっぱり…夏音だったんだ……」
「うん。初めて沙彩ちゃんの家に遊びに行ったときにさらっと置いたんだよー」
安心からかいつもの気だるい口調が戻った夏音が答える。
「あの……高宮さん、さっきは逃げるような真似してすみませんでした…。私、焦っちゃって…。けど……ありがとうございました」
何かお礼を言われるようなことをしたのかと、香澄が首を傾げる。……といっても、お礼には特に意味がないのだが。
「……私は……辛くない。楽しい気持ち……あると思う」
沙彩を含めた6人の姿を書いた、彩名の絵――それを見ながら沙彩は言う。学校のことに関して出た初めての本音だったかもしれない――。
いつもあやふやに誤魔化す沙彩だが、今回はなぜだろうか。そのままの気持ちが言えたような気がする。
沙彩は夏音と香澄に笑顔を見せると、そのまま家へと静かに戻っていった。その時のドアが閉まる音は切なくも乾いてもいない。いつもの日常が戻ってきたような、そのまま非日常へと行ってしまいそうな……不思議な音にも聞こえた。
「あたしは何があったか知らないけど……香澄ちゃんもありがとねー」
「わ、私は何も……」
このとき何だか香澄は、悠夜の過去を話してしまったことを言えなかった。成り行きとはいえ言ってしまったことを香澄は後悔していた――。
○**○
翌週――。
「おはようございます…。高宮香澄と言います。……よろしくお願いします…」
涼風中学校の秋頃の制服――長袖のブラウスに灰色のベストを着用した香澄が、黒板に名前を書いた後に挨拶をする。夏音や、学級委員である悠夜は事前に聞かされていたのと先週会ったから知っていたが、その2人以外は驚いたような顔をしていた。
「すごい美人さんだね…」
「そうだねー。先週会ったんだけどびっくりしちゃったよ、どっかのモデルかと思っちゃった」
席が近い千春と夏音が話している中で。
「……」
悠夜だけは辛そうに目を伏せていることに、夏音が素早く気がつく。
「…あれ?秋本くん、どうしたのー?」
夏音は斜め前の席である悠夜にトーンを落として声を掛ける。すると彼の肩が分かりやすく震えた。勘の良い夏音は何かあるな、と感じる。
そしてまた小声で「後で秋本くんが良いなら話してほしい」と言って、丁度挨拶が終わった香澄に向かって拍手を送る。一瞬真剣になった夏音の顔はいつものように気だるそうな雰囲気に戻っていた。