コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.149 )
- 日時: 2017/09/23 21:57
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
53.分かってくれるから。
香澄の自己紹介の後はすぐに授業があり、その授業が終わった後――。夏音は悠夜を教室の隅っこ、窓際の方に呼ぶ。
「……で?何かあるんでしょー?」
夏音の鋭い勘に悠夜が分かりやすくため息をついた。
「まさか元カノ?元カノ?」
「違ーよ」
即否定に夏音が面白くなさそうに窓枠に肘をついて外を見た。まぁその可能性はないと踏んでいたが。
「……じゃあ何ー?」
こうやって直球で聞かれたとき、人に顔を見られながら言うのに抵抗を感じる人も居る。夏音はそれを思ってずっと窓の外を見ながら聞いていた。
すると遂に悠夜の口から言葉が出る。
「……前に話しただろ?飛び降りた女子の話」
唐突にその話題が出てきて、夏音は思わず目を見開く。振り返りそうにもなったが、後もう少しのところで止めて置いた。
「…その話となんか関係あるのー?」
「その飛び降りた女子ってのがさっきの転校生。高宮香澄なんだよ」
悠夜はあえて何の感情も出さずに淡々と言っているが、その言葉の端々には後悔が感じられた。夏音はその言葉に外を見ながらだが驚愕する。
まさかその本人が転校してくるなんて思っても見ないはずだ。例え事前に会っていたとしても辛い気持ちには誰だってなるだろう。
「……でも、元気そうで良かったじゃん…」
さすがにその深刻な話にはいつもの気だるけな様子では対応できず、ポジティブな意見だが真剣に話すと。
「あん時の自分が許せねぇんだよ」
正義感の強い彼には通じない。
「高宮は別に何とも思ってないみたいだけど…俺の……せいだから」
「…………」
悠夜がそこまで言うと。突然、夏音が親指と人差し指を輪っかの形にする。
それを悠夜の額まで持っていって……
――その瞬間、パン、と音が鳴るくらいのデコピンがきまっていた。
「―――は…?え?」
悠夜は突然の出来事に目を白黒させて夏音を見ていたが、夏音は面倒くさそうに首に手を回して大きく大きくため息をついた。
いかにもこんなことしたくなかったという顔。
「はぁぁ……あのさぁ、確かに秋本くんが責任を負っていることは分かるよー?さすがにあたしも結果オーライ!っては言いたくないけど、香澄ちゃんは許してくれてるんでしょ?それに香澄ちゃんは秋本くんの考えを変えるきっかけになった人じゃん?香澄ちゃんのおかげで秋本くんは沙彩ちゃんを頑張って学校に戻そうっていう気持ちが出来たんでしょ?」
かなりの威力だったのか、未だに額を抑える悠夜に夏音が次々と少し面倒くさそうな顔をしながら――だが、内面は真剣に考えて言う。
「そのことに感謝する気持ちくらい持たないのー?香澄ちゃんだって沙彩ちゃんを学校に戻すことに協力してくれてるみたいだし。香澄ちゃんが一緒なら心強いでしょ。要は何というか………沙彩ちゃんにも辛い過去があるから……分かってくれるはずなんだよ、秋本くんのこと」
「……辛い過去…?」
「ううん、そのことは気にしなくていいから」
バッサリきられて悠夜は困惑していたが、「分かってくれるはず」というのが何となく心を動かしたようだ。
悠夜はこのことを母親にも父親にも言えず、ずっと心の中に押し止めたままいたから。
「……今日、本屋行こうよ。香澄ちゃんも一緒で」
「ああ……丁度部活休みだから俊も誘う」
「なら千春ちゃんも誘おうかなー」
何となく夏音は沙彩が気になり、悠夜を誘ってみた。今日はまた何かと波乱がありそうな一日だ。