コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.155 )
日時: 2017/10/01 19:15
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

57.繰り返したくないから。



「……何がやっと来る気になった、よ……バカじゃないの……っ!」

沙彩は肩で荒い息を繰り返す。そして床にへたり込んだ。……ここは図書室だ。
涼風書店と比べると粒のような存在だが、誰もいない分沙彩にとって楽だった。先ほどあらわにした感情は段々と薄れていく。

この図書室は、いつかに琴子に薦められたところだ。

『困ったときは図書室にでも来たらいいよ』

何となくその言葉を思い出したのと、もともと本が好きな沙彩自身の感情でここへ来てしまったが――。

「はぁ……絶対ああならないように頑張ろうって思ってたのに……!」

沙彩の涙声に凍り付いた空気。完全に沙彩自身のせいであのような空気になってしまったことは分かっているが、それでも佐野に対する憎悪感は振り払えない。
沙彩が走り去るときに佐野が何か言っていた気がするが、沙彩の耳にそれが全部届くことはなかった。


「……月島…!」


すると突然、最近やっと聞き慣れてきた声が遠くから聞こえた。振り返ってみると悠夜がドアのそばに立っている。どうやら彼も走ってきたようで、ついさっきまでの沙彩のように肩で荒々しく息を吐いていた。

「……なんで分かったのよ…」

今は一人にして欲しかったのに。沙彩はもう逃げる気も失せていた。
悠夜が歩いてこちらへ来るのをただ見ているだけだった。近づいてきたと同時に沙彩はふらふらと立ち上がる。

(……どうせ佐野のこと何か言われるんだろうな)

あんなに感情をあらわにしたんだから当然だ。絶対佐野のことを何か言われるに決まっている。もうどうでもいいやと投げ出しかけていた沙彩に降りかかってきた言葉は――。


「なぁ。月島って自殺しようと思ったことある?」


え、と。予想の斜め上を行った悠夜の言葉に沙彩は思わずそんな声を出す。
というか、話が唐突すぎだ。沙彩はそれに戸惑い、すぐに言葉を出せなかった。


「…………1回だけあるよ」
「え!?マジで……?」
「聞いといてそんな驚くことないでしょ。私の―――」

沙彩は思わず口を押さえる。言ってしまいそうだった。両親のこと――。

「私の?」
「……何でもない」
「やっぱお前なんかあるんだろ…」

明らかに不自然な様子に悠夜はため息をつきながらそう言う。沙彩は内心ギクリとしたが、なるべく表情と動作に出さないように淡々と言い返そうとするが。

「私の事情なんて私の勝手じゃない…。夏音や俊ならともかく、貴方みたいな他人が私の事情に踏み込んでこないで!いい加減にしてよ……っ!」

普段怒るときも静かな沙彩が、初めて悠夜に見せた姿だった。


「あのさ……俺、何としてでもお前みたいな不登校児をちゃんと学校に戻したいんだよ」


だが悠夜は驚きつつも沙彩のその言葉を受け流し、悠夜自身から話し始めた。

「え……?」
「高宮香澄、居るだろ?俺、あいつに声かけに行かなかったから……あいつ、自殺しようとしたんだよ」

以前香澄から聞いた話だ。まさか悠夜自身からカミングアウトするとは思わず、沙彩は目を見開く。

「俺は月島に何があったのか知らねぇけど……またあんなことを繰り返したら嫌なんだよ」

拳を握り固めている悠夜の様子に、沙彩は呆然と彼の言葉を聞くしかなかった。