コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.156 )
- 日時: 2017/10/03 00:01
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
※これは夏音が1年の頃の話です。
※番外編1同様、過去の会話文も「」で表します。基本。
番外編『桃色のメッセージ』
「できたー」
文芸部部室に響く色鉛筆を机に置く音。夏音は思いっきり伸びをする。文芸部は部員6人という大変少ない人数でなんとか繋いでいっている、あまりこの学校では人気のない部活だ。
夏音も母親に入部を強制されただけで、大して執着もしていない。活動があればそれを淡々とこなすだけ。
丁度今日は「夜空の絵を描く」というテーマで部活があった。
「やっぱ桃瀬上手いなー」
「晴樹先輩は面白みがないですねー」
痛いところを突かれ、晴樹が押し黙る。1年が2年に対してこの態度、端から見ればどうかと思う人もいるかもしれないがいつものことなので後の部員は当たり前のように振る舞っている。
すると急に部室のドアがバン、と荒々しい音を立てて開いた。部長の女子だ。
眼鏡を掛けていて落ち着いた系の彼女がこんな焦っている様子を見たことがない。部員は全員彼女の方を見る。
「会議あったんだけど……この部、功績なかったら廃部になっちゃうって……!」
○**○
「用は……ポスターで入賞すればいいってことですかー?」
「そうなの…。それぐらいしないとお金かけてる意味もないからって…」
部長の悲しそうな声にさっきまで賑わっていた部室は静かで。
普段からこの部室の雰囲気は明るいから、何だか気まずい。
「じゃああたしがポスター描きましょうかー?」
この空気に耐えきれなくなった夏音はそんな面倒ごとを受け入れていた。部活に対して執着心はなかったが、何となく可哀想だと思ったからなのと……ただ単に、この空気が大層嫌だったから。
これから夏休みに入る。夏休みはポスターを募集しているところが多いので、その中から選んで入賞を狙う作戦だ。
「……各々、夏休みの思い出を描く……」
夏休み中に募集しているポスターの種類の一覧を見ると、ふと目にとまるものがあった。自分の夏休みの思い出を描くということ。それならすぐに題材が決まるだろうし、描きやすいと思って夏音はそれを選んだ――。
○**○
夏休みのある日、家の近くにある森にふと立ち寄ってみた――と言うよりかは、誰か女の子の声がしたから――というのが正しい。普段人も居ない森に人が居るなんて可笑しい、そう思い少し怖かったが夏音は立ち入ってみることにした。
お化けとかはあまり信じないが、万が一にでも出会ったら……
(……叩く!)
謎の決心を胸にして夏音は恐る恐る森の中に入っていくと。木の間を縫って、自分のクラスメイトが座り込んで何かぶつぶつ言っている姿を見つける。
(……あれは…月島さん……だったっけ……)
小学校から同じだが、殆ど話したことがなかったためあやふやだ。とりあえず、見てしまったから放ってはおけないと思いそっと近づいていって声を掛ける。
「――月島さん?」
呼びかけても返事はない。名前を間違っているのかと思ったが、ひとまずもう一度「月島さん?」と呼んでみる。
すると座り込んで顔を埋めていた沙彩は初めて夏音のほうを見る。その顔を見て夏音は驚いた。座り込んでいる時点で普通ではないことは分かっていたが、涙を流して目も充血したように赤くなっていたから。
沙彩は何やら言っているように見えたが、声がかすれているせいか何も理解できず。何となく唇の動きとほんの少しだけ聞こえる息が混ざった声で大体は理解する。……おそらく、名前を聞いて居るんだろうと。
「夏音、だよー。貴女、同じクラスの……月島さんでしょ?こーんな森の中で何してるのー?」
彼女に何があったのか分からないが、突然色々問い詰められたら彼女も戸惑うはず。最初に疑問に思ったことだけを問う。
「別に、私は――」
何もない、とでも言う気なんだろう。即座にそれを感じ取ると。
「何もないよ、とか言わないでよー?―――」
――それから少しだけ話をして、2人は一緒に帰ることになった。
……帰り道。
夏音は沙彩から全て事情を聞いた。彼女の両親が亡くなったことについて――。
中1なんてまだまだ幼い。そんな彼女にはあまりにもショックが多すぎたんだろう。
「……あ」
「…なに?」
「ごめん何にもない。思わず声が出ちゃっただけー」
ふと思いついた。夏休みの思い出――。
あの森のことを描こう、と。
今の自分の気持ちを、精一杯詰め込んだ絵を描こう――と。
○**○
「………これ、夏休みの思い出……だよな?」
「そうですよー。それ以外に何があるって言うんですかー?」
夏休み明け、夏音が晴樹に見せた絵はあまりにも「夏休み」とかけ離れすぎていた絵だった。端から見ればただの春の風景。
そう、彼女の絵は「桜」がたくさん咲いた森の絵だった。
「何で桜……?」
「やっぱり先輩には発想力が足りないですねー!」
「え!?はぁ?これは理解不能……」
夏音は晴樹が何か言っているのを聞き流しながら晴樹から自分の絵を奪い取る。それと同時に。
「あとあたし、文芸部より大事な用があるので今日は部活休みますねー♪」
……無言。最早無言だった。
夏音の問題行動は今に始まったことではないが、これは自分でもかなりひどかったと思う。
(沙彩ちゃんにはこれから桜みたいに……もっと……明るい生活を送って欲しいから)
暗い森の中より、沙彩には桜が咲く明るい道で生活して欲しいと思ったから。
今も夏音が大事に持っているその絵は、初心に返りたいときに見ていたりもする――。
……ちなみにその絵は何らかの賞をもらったらしく、今も文芸部は続いている。