コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.166 )
日時: 2017/11/09 19:33
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

61.心からの、純粋な…。



 いつもと違う服装、いつもと違う空気。沙彩は珍しい感覚に包まれていた。
 ――ここは学校。2-3の教室。

 結局昨日はあの後帰ってしまった。「数日間学校に行く」という約束を交わして。

「1時間目って数学?」

 沙彩は彼女の席に呼んだ夏音に問う。

「そーだよ~」

 なんだか気だるそうに言う彼女の顔はいつもより笑顔で、嬉しそう。……というか、ニヤニヤしている。

「なによ…?」
「いやぁ、沙彩ちゃんが学校に来ているなんて信じられなくてねー」
「これまでの経緯知ってくるくせに。わざとからかうようなこと言わないでよ」

 
 まだ沙彩は佐野を許すつもりはないし今でも苛々することはあるのだが、少しだけ見直した。両親を亡くしたことは本当に悲しかったが、少しでも佐野が申し訳ないという気持ちがあるのならば。もちろん完全に許すに値することではない。あくまでも。
 ……するとその時。

「……あ、月島……来てたんだな」
「うん」

 悠夜が入ってきた。思えば悠夜には助けられたことがたくさんあった。結局連れ戻そうと頑張ってくれたのは彼、悠夜だった。夏音だって手助けは沢山してくれたが、今までなら絶対に「連れ戻そう」とはしなかったはず。千春と知り合ったのも悠夜のおかげ、香澄と知り合えたのも悠夜のおかげ。

 ……思えば助けられてばかりだった。


「あのさ」


 気付くと言葉が出ていた。それに後悔はない。


「ありがと」


 案の定彼は不思議な顔をしていた。感謝されるようなことは何もしていない、と言うような顔で。けれど別に知らなくても良いからと思いそれ以上は何も言わないで居ると、彼は何となく察したのか「どういたしまして」と小声を言っていた。
 正義感の強い彼は気遣いが上手い。その気遣いにもどれだけ助かったことか。

「ねぇ、今日……皆で本屋行こうよ」

 沙彩は少しだけ微笑んで夏音と悠夜に言った。それは心からの、純粋な笑顔だったのかもしれない――。