コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中』 ( No.170 )
日時: 2017/11/23 00:14
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

64.何も気にせずに笑えることって。



「とりあえず筆箱買うでしょー、シャーペンは……まぁいっか、ボールペン買うでしょー、蛍光ペンは3色は絶対要る!ものさしも買い換えた方が良い!――」

 文房具を選ぶ夏音の情熱的なことと言えば。振り回されるだろうという予感は見事に当たってしまった。セールスマン並みに文房具の解説が上手い夏音は文房具を買いに来たときは危険人物。
 ちゃんと沙彩自身が金銭面のことを考えないと、後々絶対後悔する。

「予算は3000円だけど……そんな買えるの?」
「いけるいけるー……多分」

 おおよそ、ここに売っている中学生っぽい柄の筆箱は1200円くらいが妥当だ。それからペン類も色々買うとしたら思ったよりもお金が足りないかもしれない。
 予算3000円で良い感じにしてくれるのかなぁと沙彩は不安もあるが期待もある。
 ……いや、9割方不安だ。

 中々良さそうな筆箱が見つからなかったから、千春にも探してもらった。案外こういうときは奥を見てみると意外によいものが発見できたりする。そう思って沙彩がしゃがんで奥の方を見てみると。

「………あ、これいいかも」

 黒と白のストライプ。所々に花のデザインがあしらわれている筆箱だった。見た目が少し大人っぽい沙彩が選びそうなもの。

「いいね!センスあるじゃん~」
「何それ、舐めてる?私のこと」
「いやあ……なんか、沙彩ちゃんにしては明るいの選ぶなぁって思ってねー」
「………そう?」

 つまり夏音が言いたいことは沙彩自身の性格も明るくなったんじゃないかということだ。そう、と無関心を装いながらも沙彩は後から気付く。そういえば、白が入っているものを自分から選ぶなんて琴は久しぶりのような気がする。
 なんだか、夏音の目はごまかせないと改めて分かった瞬間だった。


○*


「ほんとに3000円で済んだ……夏音恐るべし」
「ただただむやみに買ってるわけじゃないって分かったでしょー?あたしだって多少は考えてるんだよ~」
「言い方腹立つけどほんとその通りね」

 買い物を終えた女子3人組は悠夜と俊を呼んで、本を読むコーナーの方へと足を運んだ。

「夏休み中とかはあんまり行ってなかったから久々じゃない?あたしたちは」
「そうだな……なんか懐かしい」
「ここは初めて沙彩ちゃんと秋本くんが話した場所……かなー?」
「ああ。あん時は性格尖りすぎててマジびびった」
「悪かったわね……鋭利な性格で」

 苦手だ、関わりたくない……お互いがお互いをそう思っていた頃とは違う、今は穏やかな空気が流れている。
 口には出さずとも彼には感謝すべきことが沢山ある。

「そうだ沙彩ちゃん、次の中間に向けてまた勉強教えてくれない?私もう全然意味分からなくて…数学とか数学とか数学とか英語とか」
「千春は本当英数が駄目ね……そうだ、もうlikeとlakeの違いは覚えたの?」
「それくらいは覚えたよ!?……あ、前覚えてなかったか」

 千春の狙ったかのようなボケに、沙彩たちは笑いに包まれる。

 すっかり明るくなった雰囲気。沙彩は多少、不登校の遠慮……そのようなものがあったのだが、今となってはそんなことを気にせずに笑っていられる。
 それがただただ嬉しかった。