コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『最終章開始♪』 ( No.174 )
- 日時: 2017/11/29 21:20
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
66.澄んだ目で。
「ホットケーキにする?マフィン?チョコレート系?」
「沙彩さんはどれが好きなのでしょうか……」
「沙彩ちゃんはチョコレート好きだった思う、チョコレート系にしよ~」
この2ヶ月くらいの間で変わったことは香澄が幾分馴染んだこと。敬語は何かの癖なのか知らないが、名前にさんを付けて呼ぶようになった。
「チョコレートだと……チョコケーキが良いかな~」
「ガトーショコラのことですか?なら私、作れますよ」
「ほんとー!?じゃあガトーショコラにしよっかー」
……そんなこんなで、作る料理を決めて今日は解散となった。
○*
「沙彩さん、楽しんでくれるでしょうか…?」
「どうだろうね……騒がしいのはあんまり好きじゃない性格だからね~…」
そう、これだけ盛り上がっていても当の本人が楽しめないものだったら意味がない。そのために夏音も色々計画を立てているわけだが、沙彩の気持ちなんてもちろん沙彩自身にしか分からないことだ。夏音はおそらく人一倍沙彩のことを知っているつもりだが、それでも……。
あまり嫌なことは考えたくないのだが、拒絶されては今まで沙彩と気付いてきた交友関係が崩れてしまう。
「ま……両親も居ないんだし、楽しい方が喜んでくれるんじゃねぇの?」
悠夜のそんな言葉は誰も共感することも反論することもなかった。そうかもしれないけれど、とは思うのだがそれで終わる。
「とりあえず、今はポジティブに考えよーよ。あたしは少なくとも沙彩ちゃんは楽しんでくれると思ってるしー……秋本くんの言うとおり沙彩ちゃんには両親が居ないから……余計なお世話って思われるかもしれないけど空回りでも良いから頑張ろ?」
いつもだらけた夏音に似合わない言葉。けれどそれで笑う人なんて一人もいない。
とりあえずこれから2週間頑張るよ、と夏音が言って別れた。
「――あれは……沙彩ちゃん?」
角を曲がったところで気付く、買い物袋を持った沙彩の姿。今日は学校に来ていなかったが元気なことを確認すると、夏音は沙彩の名前を呼びながら走り沙彩の所へ駆けていく。
「あ、夏音……ごめんね、今日は学校行けなくて」
「いいよいいよ~、仕方ないって」
「……なんか、学校行かなかった日ってすごく憂鬱になる時間帯があるの。やっぱ私……ただ閉じこもってただけなんだって分かった」
空を見据える沙彩の目は澄んでいた。夏音は良かった、と沙彩に聞こえるくらいの声で呟いてにっこりと微笑んだ――。