コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『最終章♪』 ( No.190 )
日時: 2017/12/14 21:26
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

76.グループ。



「お、美味しい…」
「ありがとうございます、沙彩さん。ひかりさんも手伝ってくれたんですよ」
「へぇ……あの不器用なひかりがねぇ…」
「不器用言わんといてよ!割とマシになった方やで!?」

 沙彩が遠い目で言うのをひかりが否定する。ひかりは陸上一筋だったため、料理をするような感じではないのだ。
 
「なんか……ほんと、私のためにこんなに、ね……」

 沙彩はしみじみとそう言っていた。この部屋のあちこちを見渡しながら。
 綺麗に飾られた部屋に誕生日おめでとうという文字。何度見ても、本当に感動できるくらいの嬉しさがある。
 
 夏音が思ったとおり、沙彩にとってこんなに盛大に誕生日を祝われる――サプライズパーティーを行ってくれるなんて初めてだ。両親が居たときも、ケーキを食べるくらいでここまで自分のことを思って祝ってくれる――しかもそれが中学校で出会った友達。
 きっと両親も喜ぶであろう光景だ。

「……沙彩ちゃん、正直どうー?このパーティー」
「正直に言ったら…………学校に行き始めて良かったな、って」

 「学校に行き始めて良かった」――そんな言葉、数ヶ月前の暗い沙彩からは絶対発せられないようなものだった。必要以上のものは何も求めない、そんなさっぱりとした性格だったが、沙彩自身もかなり代わったことを自覚している。
 正直、有り得ないのだ。少し前の自分からは。


「皆……ほんと……ありがと……」


 ――その時、沙彩が突然一粒の涙を流した。その涙は頬を伝っていってすぐに消えていって……よく見ていないと分からないくらいだったが、ここにいる全員がその瞬間を見ていた。

「あぁ……ごめん、感慨に浸ってただけ」
「……良かったね、このパーティー……企画して」
「……まだ終わってないよー!!続けよー!」

 突然しんみりした空気を夏音が変えようとするが、夏音も沙彩の言葉に半泣きしそうだったのか声が少しだけ震えていた。
 

○*


 ケーキを食べてからは、何人かが持ってきたお菓子を食べたり喋ったり。寒いから外に出て遊ぶのは嫌だからという理由だが…。
 特に筋もなく話をしている。

「沙彩ちゃん、そろそろラインする気にならないー?」

 夏音はふと思い出す。グループラインに沙彩が入っていないことを。

「うーん……まぁ……楽しそうだけどね…」
「ならさ、お願い!楽しいよー」
「そうだよ、沙彩ちゃんが入ったら絶対もっと面白くなるって!」
「俺らも……同意見かな」

 沙彩の曖昧な返事に夏音と千春と悠夜が後押しする。沙彩は唇を少しだけ噛んでばつが悪そうに俯いた。別に悪いことではないのだが――実は、沙彩はラインがどういうやり方なのかがよく分からないのだ。
 ただアプリを入れているだけで、ほぼ誰ともやっていない状態だ。

「……あー……」

 沙彩は顔を上げても夏音達の眼差しから目を背けている。いまいち決心がつかないのだろうか。唸るばかりだった。

「……今日が……楽しいと思ったのなら、入って欲しいです」

 ずっとうーん、と言って中々進展しない沙彩に香澄が一声掛ける。今日――このパーティーが楽しいと思ったのなら。
 その言葉に沙彩はずっと背けていた目を夏音達の方に向ける。


「………わ、かった。なら入る」


 沙彩は途切れ途切れに返事して、恥ずかしそうに俯いて「入れ方教えて」と言って携帯を出す。 
 夏音はにっこり微笑んでその携帯を受け取り、グループラインの入れ方を説明して新しくグループに入った「沙彩」の名前を嬉しそうに眺めていた――。