コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『最終章♪』 ( No.191 )
- 日時: 2017/12/16 00:29
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
77.きっと聞こえているはず。
「パーティーお疲れ~!最後に一杯飲もうー」
「お酒じゃねえし……」
パーティー疲れからかおかしなテンションになった夏音は酔っぱらったみたいにそんなことを言っている。それに悠夜が突っ込んでいる状況だ。
夏音は炭酸ジュースをどこか頼りなくフラフラとしならが開けて皆のコップに入れていった。
「あれー?あたしの分だけ無いー……」
こんな時の優しさで自分が損してしまうこと。皆の分を入れていったら自分の分が無くなってしまったようだ。
「……ま、いっかー!」
……多分これは後で思い返して羞恥心で布団の中で暴れてしまうパターンだろうか。
夏音はふぅ、とため息をついて机に突っ伏した。自分の分がない悲しみからか少しだけ我に返ってしまったようだ。急に静かになった。
「……あのさ。皆、これって何週間前から企画してたって言ってたっけ?」
「2週間前やで」
本当は夏音がパーティーの前半部分に言っていたのだが、あまり聞き取れていなかったのだろうか。沙彩が聞くとひかりが答えた。
「……そっか……そりゃあこんなに疲れるよ」
沙彩は申し訳なさそうに瞳を揺らして机に突っ伏したままの夏音を見る。2週間前から中心となっていたのはどう考えても夏音としか考えられない。だからこれだけ疲れているのにも納得できる。
「はぁ……ほんとこんな経験初めてだからさ……どんな反応したらいいのか分からなかったけど、本心から本っ当楽しかった。何回言うのって感じだけどね……」
沙彩はそれだけ言うと突然俯いた。照明から発せられた光で、何かがキラリと反射する。
「……んー?沙彩ちゃん、どうしたの?」
「………何でもない……」
ちょうど突っ伏していた頭を起こした夏音がすぐに沙彩の異変に気付く。が、沙彩は気恥ずかしそうに俯いたままそう言った。
「解散にしよっか!皆、お疲れ様でした!!」
「「お疲れー!!」」
千春のかけ声に合わせて皆が声を揃えた。
沙彩だけはそれに合わせず、代わりに違う――何かを押し殺したような声を静かに響かせていた。
「――沙彩ちゃん、一緒に帰―――」
「ごめん、私……先帰らないと………」
沙彩は未だに俯いたまま、皆に背を向けて「ありがと」と会釈をして走って家に帰っていった。
「……どうしたのかなー」
「パーティーは嫌そうじゃなかったはずだけど……」
沙彩の不可解な行動に、夏音達は呆然とするしかなかった。
○*
現在時刻は5時。結局かなり長い時間喋り倒したから、かなり暗くなってきていた。12月12日というと5時になったらかなり暗くなっているような時期だ。冬至もまだ来ていない。
沙彩は家路を走る。いつもより長く感じるのはパーティーが何か関係していたりするのだろうか。
「……ただいま、お母さん!お父さん!…」
沙彩は滅多に出さないような元気の良い声でそう挨拶をする。返ってくることはない――けれど沙彩はそんなことを気にしてないようなすっきりした顔で母親と父親の写真が置いてあるシェルフまで早足で向かって、足を止めた。
「祝って貰えた……誕生日………楽しかったよ……!」
写真に向かって――というと変な言い方になってしまうかもしれないが、沙彩にはそれが満足感でしかなかった。大粒の涙を1粒流し、袖で涙を拭う。
「……夢にも思ってなかった……お母さん……お父さん……ほんと、私にだってこんなに楽しむ資格があるなんて……」
途切れ途切れの彼女の声は母親と父親には届いているのだろうか――。
「うっ……ぅ……」
沙彩は堪えきれずに涙を流す寸前だったが、何となく泣いてはいけないと思い頭を左右に振って意識を切り替えるように自分の部屋に戻る。
「……急に帰ったのはまずかったかな……」
……それでも良いだろう。今なら、学校に行って謝罪でも感謝でも何でも言えるのだから。
○
なんか内容が本当終わりに近づいてきたって感じですね……。