コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ募集中(=゚ω゚)ノ』 ( No.23 )
日時: 2017/07/28 12:58
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

09.初めての笑み。



授業が終わり、部活を休むことの許可をもらった後。
悠夜はため息をつきながら涼風書店へと重い足取りを無理矢理進める。


「俊も桃瀬も居ないんじゃ……無理だろ……」

前の様子を見ていると、話すことすら不可能に近い。足を進めるだけ気が重くなっていく。今日は家に確認は行っていないから本屋にいるという確証は持てないけれど。

(居なかったら居ませんでした、て言えばいいか…)

段々近くなっていく涼風書店の青い看板。もう少しか、とさらに気が重くなっていった。


○**



自動ドアが開くと、冷房の涼しい風が体に心地よい。少し進んで本の試し読みコーナーを見ると、案の定沙彩は前と同じ右端の席に座って本を読んでいた。ブックカバーが付いている辺り、買って読んでいるのだろうか。
俊と行ったときより恐る恐る、沙彩のほうへと近づいていく。

沙彩は読書に夢中で気付いていないのが少しやりにくかったけれど、驚かさないように正面から声を掛けた。


「月島」

自分の前に影が出来たことに気付いた沙彩は、突然声を掛けられたというのに大して驚きもせずに本から影へと視線を向ける。


「……秋本…だっけ」


呼び捨てかよ、と言おうとしたけれど、沙彩は読書を邪魔されたようで少し不機嫌なようだったから喉で止めておく。


「また先生にでも何か言われたんでしょ?わざわざご苦労様、こんな所まで来てくれて。生憎だけど私は学校に戻る気はないから、帰ってくれる?」
「何か前より言い方きつくなってんの……」
「私は学校に行くのは嫌って言ったでしょ?しつこく絡んでこないで、貴方も私みたいな人と絡むのは嫌でしょ?嫌なら嫌って先生にはっきり言ったらどうなの?」
「……学級委員だからそういうわけにはいかねぇんだよ。皆心配してるはずだから、学校に―――」


『貴方が学校に来なくて、皆心配してるんですよ!!』



――刹那、バンッと……何かを強く叩いたような音がした。



悠夜が反応できずにいると、沙彩が机に手を置いたまま乱暴に立ち上がって悠夜の前に立って彼を睨みつける。2人の身長差はあまりないので、どちらも見上げることはない。沙彩の目はもともとつり目だから、さらに鋭くなった目は野獣のような雰囲気だった。


「――いい?私が学校に行く理由はないの。前貴方に学校に行く理由を聞いても答えられなかったでしょ?貴方と普通に話すのはまだ構わないわ。けれど、学校に行く行かないって話題出したら本気で怒るよ」
「あ、あのさぁ……」

沙彩の雰囲気から怒っていることは誰でも分かるが、声は少し怒気を含んだだけで落ち着いていた。……落ち着かせていた。
異様な沙彩の怒り方から思わず両手を挙げた悠夜が恐る恐る聞く。


「もし、桃瀬や俊にそんな話題出されても怒るのか……?」


そう聞くと、鋭かった目が一瞬見開く。でもすぐに鋭くなって、


「夏音や俊に言われても――怒るはずよ。………にしても」

やっと血の気が冷めたのか、沙彩は怒気を含んだ声から普通の声にすると。


「貴方……私にここまで言われて他人のことを聞くなんて……相当度胸あるのね」



その時、沙彩は悠夜の前で初めてくすりと笑みを見せた。……嘲笑かもしれないし、軽蔑かもしれないし、哀れみの可能性もある。でも笑みを見せたことには変わりなかった。
初めて見せた意外な顔に、悠夜は戸惑いながら苦笑いをこぼした――。