コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.29 )
- 日時: 2017/07/31 09:23
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
11.理由。
「買いすぎた……」
「だから言ったじゃん、そんなに買うお金あるのって。お金はあったみたいだけどお小遣い全部使ったんじゃないの?」
「うん……あはは」
結局、何も考えずに色々買った結果2430円という中学生の文房具に掛ける値段としてはかなり高いものになってしまった。
無理に明るく装おうとする夏音の乾いた笑いが静かに消える。
「――てか、話って?」
精算が終わり、いつもの読書コーナーの右端の席に座ると。沙彩はさっき、『お話があるんだけど』と夏音が言った言葉を思い出す。
夏音がこんなことを言い出すのは珍しいから嫌な予感しかしなかったけれど、嫌な話はいつか聞かなければいけないのだから早く済ませようと思い聞いた。
「あぁ……沙彩ちゃんにとっては嫌な話かもしれないけどー……」
言いたいことをすぱっと言ってくる夏音にしては言葉を濁らせていた。やっぱり嫌な話なんだな、と沙彩はため息をついて「言って良いよ」といつもより優しい声で言う。
「ごめんね、秋本くんの話。いいかな?」
「………別にいいよ」
夏音が学校の人について話すのはよっぽどのことがない限り有り得ないのだ。沙彩は不登校で、学校があまり好きではないから学校のことは極力話すな、と言ったから。
言葉を濁らせたのはそのためだ。
「―――沙彩ちゃんは、どうしてあの子と自分を遠ざけようとするの?」
秋本くんを拒絶しちゃ駄目だよ、何で学校行きたくないのかしっかり話した方が良いんじゃない?―――そんなことは言わない。夏音が欲しい返事ははいかいいえではなく、「なぜか」。
それが自分を見透かしているような気がして―――
「さぁ。何でだろう……ね」
「でも理由はあるでしょ?あの子に対して拒絶する反応を見せるのは心のどこかで関われない、って意識があるから。それを沙彩ちゃん自身から話してほしいなー」
「…………」
拒絶反応は、必ずしも理由があるわけではない。直感的に、そんな場合もあるだろう。
けれど――沙彩の場合は、思い当たる理由があった。
「―――あの人は……コミュニケーション力もあるし、友達も沢山いそうだし…人に恵まれてる。私みたいに家族が居なくて友達も夏音と俊…沢山いる訳じゃないし、教師にも恨みがある不幸ごとの塊のような奴と……あの人とは、関わらない方が良いと思うの」
淡々と言った沙彩の言葉はすぐに消えても、夏音の耳にははっきりと残った。
「……ならどうして、あたしや俊くんとは関われるの?」
もう何も問われないだろうと思っていた沙彩に、さらなる疑問がぶつけられた。悠夜と関われなかったら夏音と俊にも関われない、と考えるのが自然でもある。
「…………」
「答えられない?」
「―――貴女たちは……私がどうして学校に行けないのかを、知ってるから。あの子は知らないでしょ?」
「じゃあ彼に知ってもらったら?そうしたら話せるの?」
「…それは駄目なの!彼は純粋そうだから……私の事情なんて話したら駄目。あまり………心配かけたく、ないから」
特定の人にしか私の事情は話してないでしょ、と付け加えた沙彩は滅多に見せない弱った顔だった。
「……そっか。ごめん、こんな話して」
「いや、いいのよ……その代わり、もうこの話は終わりね」
「うん……じゃああたし、そろそろ帰るね」
「分かった。じゃあね」
「……ばいばい」
「――何であの人は……私を連れ戻そうとしてるのかな……?」
拒絶されたなら……先生に頼むことも出来るはずなのに。
それはその時、沙彩が知るよしもなかった疑問――。