コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.37 )
- 日時: 2017/08/01 18:34
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
14.勉強会はさらなる波乱の訪れ。
2日後―――。
夏音はある用事で、沙彩の家の前まで来ていた。……ちなみに沙彩はそのことを全く知らない。
「沙彩ちゃん!居るー?」
『……夏音?』
「夏音だよ~。実はさ……―――」
○**
「いきなり来て、勉強教えろとか………」
沙彩がため息混じりで夏音に聞こえるように呟くと、夏音は笑み――あまり悪気のなさそうな笑みを浮かべた。突然来ても家に上げてくれると思ったのだろう。
ある用事、とは勉強を教えて欲しい……すなわち勉強会をしようということだ。
「だってー、今回は俊くんに勝ちたいんだよー」
「あいつは塾行ってるじゃない。塾行ってない夏音に負けたくはないでしょ」
「塾行ってるからこそ勝ちたいよ~。じゃあ沙彩ちゃんだって塾行ってないじゃん」
「叔母さんに教えて貰えるからいいの。それに不登校なのに塾は行くとかないでしょ」
確かに、と夏音が笑う。内心じゃあ学校行けばいいじゃんとも少しは思ったけれど……事情が事情だ。仕方ない、で片付けられることではないが、夏音がこれと言って出来ることもない。
「で、どこが分からないの?てか、範囲教えてくれない?」
「あぁ……範囲表はこれ。分からないところはいっぱいあるけど……まず数学かな?ほら、この連立方程式――」
「これは上の式を2倍して解くの。……今回、5教科は範囲広いわね……実技教科は結構狭いけど」
音楽など、実技教科の範囲が狭いのは沙彩にとっては良いことである。勉強する部分が少ない分5教科の勉強に時間を使えるから。
「悪いけどこれ、コピーさせてもらうわね」
「どうぞ~」
コピー機の電源を入れて範囲表をセットし、ボタンを押す。範囲表に関して頼れるのは夏音と俊だけだからこういうときにはありがたい。
「―――ねぇ!明日か明後日にさ、あたしの友達……ここに連れてきても良いかな?」
――突然、夏音が放った言葉に沙彩が硬直する。
……沙彩と夏音は友達。だが、夏音の友達……その人は沙彩とは初対面なわけで。大げさに言うなら、知らない女の子を家に上げろと言っているようなものだ。
夏音の友達だから、別にそこまで悪い子ではないはず――だが、それにはさすがに抵抗があった。
「そ、それはさすがに無理よ。知らない人を家に連れてくるんでしょ?」
「まあそうなるねー。その子……すごい、何というか……勉強できなくてさ!だから、学校に来ていたら学年1位になれる沙彩ちゃんに勉強を手伝ってもらいたいって……駄目かなぁ、やっぱり……?」
「う、ぅ……ん……」
夏音が上目遣いで頼んでくる。……友達の頼みを無理だと突き放すか、抵抗があるけれど人の役に立つことをするか。
……前者を選ぶと、その夏音の友達の期待を裏切ることになる。後者なら、沙彩自身の勉強時間が無くなる上知らない女の子を家に上げなければならない。
「―――う…じゃ、あ……夏音、携帯持ってるよね!?」
「え?持ってるけどどうしたの?」
「その子、今部活中――?」
……直接会うことは無理だから、とりあえず話してみようと沙彩は思った。とりあえず話だけ聞いて無理そうなら断ろう。
「いや?今日は休みだって……テスト一週間前だし」
「じゃあ、ちょっと電話してみても良い?」
「……あたし一回電話してみるよー。良さそうなら代わるね」
沙彩がこくりと頷くと、夏音は携帯を鞄からとりだして、「千春」という件名を押し、携帯を耳の横に当てる。プルルル、と言う音が沙彩の居るところまで聞こえた。
しばらくして。
『もしもし?夏音ちゃん?』
「あ、千春ちゃん!突然電話ごめんねー。明日か明後日に沙彩ちゃんの家に行こうかどうしようか、って話なんだけど―――」
『え!行けそうなの!?』
……彼女はかなり声が大きいようだ。少なくとも2メートルは離れている沙彩のほうまではっきりと聞こえる。
「それで、今あたし沙彩ちゃんの家にいるの。電話、代わってみる?」
『代わってくれる!?マジで?お願い!』
――マジか、と沙彩は内心思った。こんなテンション高い子なのかと。
とりあえず期待はしてくれているみたいだから代わってみようと夏音が差し出した携帯に手を伸ばしてそれを耳の横に運ぶ。
「……もしもし。代わったけど……」
『こんにちは!月島さん!!突然夏音ちゃんにお願いされてびっくりしたと思いますけど……どうか、馬鹿な私に勉強教えてくださあぁぁい!!!お願いします!!!』
耳元で改めて声を聞くと、本当に騒がしい女の子……という感想しか持てなかった。めったに人の意見に左右されない沙彩もその雰囲気に気圧されたのか。
「わ、わかった……明後日なら良いから。えっと……お昼から……?」
『有り難うございます!昼からが良いです!1時からって大丈夫ですか!?』
「う、うん……じゃあ1時から、夏音に道、案内してもらって…ください。では……失礼します」
最後敬語になりながらも、沙彩は何とかその電話を切った。未だに「勉強教えてくださぁい!」の声が耳に残っている。
……了承してしまったわけで。
「夏音……明後日……よろしく……」
「絶対あの子のうるささは何とかするから!ね!本当ごめん、ありがとねー!」
ため息をつきたい気分だが、「分かった」と言ったときに千春が喜んでいた様子と、自分のことのように嬉しさを隠し切れていない夏音の様子を見ると少し微笑ましくなった――。