コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.45 )
- 日時: 2017/08/04 11:22
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
17.着信音。
それから18時まで、途中何回か休憩を挟んで勉強会を行った。likeをlakeと書き間違えるような千春も、この5時間の間に千春自身のやる気で何とか平均点を取れそうなくらいまで学力を上げた。
夏音も、5教科で俊に勝てるか勝てないか微妙なところだが出来る限り「分からない」と言っているところは沙彩が教えた。
「――沙彩ちゃん、今日はありがとねー!」
「本当に沙彩ちゃんの説明分かりやすかったよ!……あ、沙彩ちゃん、連絡先……教えてくれませんか?」
2人を見送ろうと玄関ドアを開けて外へ出ると、千春が沙彩にそう提案した。……今日の頑張りから見て、夏音の言う通り普通に良い子だということは理解した。それに、沙彩にとってこれから友達が出来るなんて……そんな機会は滅多にないというか、ないと言い切っても良いくらいなのだ。
「――分かった。携帯、出して」
携帯番号を交換し、沙彩は帰っていく2人を見送った――。
○**
――見送った後、沙彩の部屋にて。
教えるのに使った教科書類をまとめて本棚に直し、別の部屋から持ってきた大きめの机を元の部屋まで運ぶと。自分の部屋に戻ったら、少し殺風景な部屋が目に映った。
さっきまで勉強会をしていた楽しい様子が蘇る。
(……寂しい、のかな)
沙彩にとって、知り合い、仲の良い人を覗いた人と出会うことなんて苦痛でしかなかった。
――けれどそれは、偏見でもあったのか。
自分にとって嫌な人もいれば、別に何も感じない――さらに、良い印象の人だって居る。
中学1年生の秋ぐらいから人との出会いを殆ど閉ざしてしまったせいで、沙彩にとっての「出会う人」というのは全員嫌な人だという印象を持ってしまった。けれど、千春は――彼女の学力や性格から呆れることはあったけれど、出会ってから嫌悪感は一度も生まれなかった。
それはきっと、勉強会が「楽しかった」という証拠。
「新しく友達が出来ることって……こんなにも――」
でも、沙彩には――。
1年前のあの日、両親がいなくなって……その一週間後に、佐野にぶつけられた言葉が鮮明に頭に残っている。あの言葉で沙彩はまだ学校に行けない。また佐野に会うかと思うと、嫌だからだ。
沙彩がもつ偏見の原因は……佐野のせいでもあるのだ。
――複雑な感情が混ざって。それを振り切るように階段を下りて夕食の準備をする。
その時、携帯の着信音が鳴った。
千春からだ。通話ボタンを押して、携帯を耳の横に当てる。
『もしもし、沙彩ちゃん?夕食準備中かな?』
「今からよ。どうしたの?」
『沙彩ちゃんに教えてもらったおかげで宿題がすっごい速く進んでてさ!この感動と嬉しさをすごく伝えたかったわけ!ほんっと、沙彩ちゃんのおかげだよ~!!』
電話から聞こえるのは、勉強会の時にも何回も聞いた大きくて……悪く言えば少しうるさくて……でも、聞けば元気が出るような声。
「ううん、私も楽しかった。テスト、頑張れ」
『ありがとう!沙彩ちゃんも頑張ってね』
「……うん」
プツッ、と切れる電話、携帯の画面に現れる「通話終了」という文字。
「ありがとう、千春……――」
久しぶりに、楽しませてくれて。
携帯を食卓において、沙彩は無自覚に優しい笑みを浮かべた。