コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.52 )
日時: 2017/08/07 17:46
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

21.もう二度と。



――。

1学期期末テストが全て終わって――通常通り部活に行く生徒、そのまま帰る生徒が沢山玄関に集まっていた。
今日は沙彩はテストが終わって瞬間的に保健室から出たので、佐野は追いかけも出来なかった。悠夜は昨日、帰りの会が始まる少しの間に沙彩を追いかけたのだが――今日はテスト回収に手間がかかり、それが出来なかった。





「――ねぇねぇ、秋本くん」

帰りの会が終わってから、夏音は悠夜に声を掛けた。もちろん今朝――沙彩と話している中で疑問に思ったことを寄港というのが目的だ。

「……ん?」

悠夜はそんなことも知らずいつもと変わらない様子で返事をする。当然だ、夏音があまりにもいつものように平然としているから。

「放課後、部活ある?」
「今日はないけど」
「じゃあさ、一緒に帰ろうよー。今日俊くんがまた病院行くらしいし、沙彩ちゃんは家に居るんだって。部活ないなら丁度良いじゃん、帰ろうよ~」
「………分かった」

夏音はにこやかに話すが、その笑顔は少し作り物っぽくて――悠夜は若干、嫌な予感を感じていた。

夏音が自分から離れたのを感じ取った後、悠夜は誰にも聞こえないように小さく嘆息した。


○**



「――秋本くんは今日のテスト、どうだったの?」

夏音はなるべく自分の目的を悟られないように、日常でよく言うような会話から始めた。テストが終わった直後だし、会話はじめには丁度良い話題だろう。

「……もう散々。数学なんて10個以上開いたよ」
「へぇ……あたしは昨日も今日も良かったよ?少なくとも前のテストよりかは手応え合ったしね!」
「誰かに教えてもらったのか?」
「うん!実はねー、沙彩ちゃんに教えてもらったんだよ~」
「ま、マジか……月島って頭良いらしいしな……」

頭良い奴に教えてもらえるなんて羨ましい、と少し悲しげに言う悠夜。俊に教えてもらえるんじゃないかと夏音が疑問を持つが、そこは色々プライドでもあるのだろうか、とりあえず気付くまで言わないことにした。


「てか、何で帰り誘ったわけ?なんか……ちょっと嫌な予感がしたのは当たってる?」


悠夜も悠夜で疑問があった。帰りに誘われる、そんなことはあまりない。増してや面倒くさがり屋の夏音だ、何か理由があるはずだ。
またいつものあの怖い笑顔を向けられるのかと思ってゾッとしたが、聞いてしまったことは仕方ない。返事を待つことにした。


「あぁ……うん……嫌な予感、当たってるかもねー…」
「マジかよ、嫌なときだけ予感って当たるもんだな」

あはは、と夏音の乾いた笑いが2人の歩く道に響いたような気がした。その笑いからやっぱり何かあるのだと、悠夜が若干身構える。
少し言葉を整理するように俯いた後、夏音はいつもより小さな声で話し始めた。


「いやー……――どうして秋本くんは、沙彩ちゃんに何を言われても話しかけに行けるのかなって。先生に頼まれても断らない理由って、何なのかな……って」


別に答えられないなら良いんだけどね!と、夏音は無理して明るい声で言う。
けれど、その目はいつもの明るさがなく、真剣そのものだった。初めは沙彩が気になったことだが、言われてみると夏音も気になったから。

チラリと、夏音は悠夜の顔を見てみると。困ったように、苦笑いをしていた。苦笑いというのは、少しマイナスなイメージに言い換えるとごまかしの笑いだ。この様子から、とりあえず何かあることには違いない。


「……何か、理由あるんでしょ?」

悠夜は俯いているが――口を開きかけては閉じる、と言う動作を繰り返している。どちらかというと悠夜は明るい性格だ。だから、少し顔に影がかかっている彼を見るのは夏音にとって初めてだった。



「……飛び降りられた」
「―――え?」


悠夜がようやく発したのは、不穏な言葉だった。聞こえなかったわけではない――寧ろはっきりと耳に残ったのだが、夏音は思わず聞き返してしまった。


「3年前――これとほぼ同じ状況だったとき。俺が学級委員で、俺と同じクラスに不登校児がいたんだけどさ。俺が先生に頼まれて……その不登校児を学校に来させてって頼まれたんだけど、面倒だったから先生に行ってないのに行ったって嘘ついて、最終的に……学校の屋上から飛び降りたんだよ。運が良かったのか命に別状はなかったから……今は別の中学校で楽しく過ごしてるらしいけど」


……つまり、自分が嘘をついて――不登校児に関わりに行かなかったからその子は飛び降りたんだと、責任を感じているのだ。
二度と同じことを起こさないように、と……だから沙彩に拒絶反応を見せられても何とか意地で声を掛けにいけるんだ。



「―――そっか。なんか……話させたみたいで、ごめんね?」
「いや、別に……その代わり、こんなこと月島に言わないでくれよ。月島も気になってるとは思うけど」
「……え!?え……あ……う、ん」


もとはと言えば沙彩が気になったこと―――それを沙彩に言ってはいけない。

(そんなの……ずるいよ……沙彩ちゃんになんて言えばいいの…?)

沙彩と悠夜、お互いの秘密を知ってしまった夏音にとってこの状況は複雑だった。



「……ばいばい!」
「え?あ、また明日――」

丁度、夏音と悠夜が別れる角。夏音は走って家に帰った。






お互いに……悲しい秘密を持っている2人。

きっと沙彩が悠夜の秘密を知ったら驚くだろうし、逆も驚くだろう。
その間の立場にいる夏音の心には、もやもやした気持ちが渦巻いていた。