コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.81 )
日時: 2017/08/26 21:38
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

32.面と向かって。



今日から、涼風中学校は夏休みに入る――最も、沙彩には関係のないことなのだけれど。沙彩が本屋までの道をこそこそ歩いていると、私服姿の同じ中学生をよく見かける。
沙彩も私服姿だから、知っている人でない限りその人が沙彩だとは分からないから、ある意味好都合だ。

この暑さで、本屋までの道がとんでもなく長いように見える。

「あっつ……」

服の袖で汗を拭う。歩いているだけでも流れてくる汗は、本当に不愉快だ。


本屋までもう少し。何とか暑さを我慢して、本屋にもうすぐで入ろうと思ったその時。


「――もしかして、沙彩ちゃんとちゃうん?」

突然聞こえてきた、標準語に慣れた沙彩からはイントネーションに違和感がある声。一旦近くの日陰に入ってから振り向くと、そこには亜麻色の髪をショートヘアにしている――沙彩より1、2㎝高い――けれど別に大人ではない、寧ろ沙彩と同い年くらいの女の子が立っていた。

「……?」

普通の人よりも少しだけ焼けた肌。それを見て、ふっと記憶が蘇る。


「――ひかりさん…?」
「そうやけど。ここで何してるん?」

――夕凪ゆうなぎひかり……沙彩と同じ陸上部で、お互いがお互いのライバルであった関係。大会で準優勝経験もある、沙彩と同級生の女の子だ。ちなみに、関西出身である。中学校からこの地方へ引っ越してきた。

「別に。本屋に来ただけ」
「不登校で何やっとるんかと思ったら……そんな元気があるんやったら学校来たらどうなん?……あんたが不登校なってから、うちと実力釣り合うやつおらへんねんから……」

ぷい、とそっぽを向きながらひかりはぼそぼそと言う。

「……そんなこと、知らないわよ」
「あん時はライバル視しすぎて色々ひどいこともうたけど、やっぱりつまらんわ。今の陸上部」
「……顧問の教え方が悪いんじゃないの?」
「それもそやけど……元々実力ない人らがいっぱい来んねん!」

沙彩は一応、陸上部所属と言うことになっている。ただただ来ないだけで。だから必死に、ひかりが陸上部に戻そうとしているのだ。
沙彩の実力は――鍛えれば、本当に凄いものだから。

「せや!この前千春ちゃんに、夏祭り…誘われたんちゃうん?」
「――…え?」

急にひかりの口から予想外の名前が出てきて、沙彩が思わず聞き返す。

「あぁ、2年なったときから夏音ちゃんと千春ちゃんとは友達やで。それで、千春ちゃんに誘われたやろ?」
「……あ……ぁ」

ひかりに言われて沙彩が一瞬、顔をゆがめる。

……おそらく、千春が夏祭りのことを言えなかったのは自分のせいだからだ。

「え!?もしかして、千春ちゃん言えへんかったん!?」
「……そ、の……違う…」
「え?」

喉に突っかかりながら何とか出てきた小さな声を、ひかりが拾う。

「わ、私が……余計なこと言っちゃったから……」
「せやったら、今からうちがもう一回言うで?」
「――え?」

もとから、千春がもしかしたら沙彩を誘えない――その可能性を考慮していたのか、先ほどの驚きはもうなかった。ひかりは冷静になり、改めて…


「夏祭り、一緒に行こ!」


沙彩のことだから、断られる可能性の方が高い。
だからひかりは少し切なそうに笑った――。