コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.93 )
日時: 2017/08/31 22:30
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

33.1ヶ月しか経っていないのに。



「………」
「嫌なん?沙彩ちゃんが嫌やったら別にええんやけど…」

ひかりの切なそうな笑いは、沙彩の心を痛めることがある。実はひかりは沙彩と同じ――同じとは言えないかもしれないが、ひかりは父親のことを覚えていない。小さい頃に両親は離婚し、母親の元で育ったからだ。
同じ、家族が欠けている――その彼女が作る笑いに、いつも心を痛めてしまう。

沙彩がしばらく、放心状態になっていると。

「ひかりちゃーん!!」

いつものあの、大きくて甲高い声が聞こえた。―――千春だ。
沙彩が振り向くと同時に、千春も沙彩に気付いたようだ。

「あ……沙彩ちゃん、おはよ……?」
「……はよ」

耳を澄まさないと聞こえないような声で沙彩が返事する。千春はきっと、自分が突き放すように言ってしまったから――怒っているんだろうな、と沙彩が謝罪の言葉を口にしようと決意したと同時に。


「ごめ―――」
「あのさ、沙彩ちゃん!!」


同時に発した言葉。圧倒的に大きい千春の声に沙彩の声はかき消された。ハッとして沙彩は千春のほうを見る。
千春は私服のスカートのポケットから何やら紙を取り出す。


「ごめん!前誘えなくて………夏祭り、行こうよ!」


千春の手の中で広げられたのは、沙彩が前に見た、キラキラした花火が映っている夏祭りのチラシ。


(千春……本当、純粋ね……)

沙彩が前に威圧的にはなった「話はそれだけ?」という言葉。そう言われてもめげないなんて。そしてこうやって夏祭りのようなビッグイベントに誘ってくれるなんて。

知り合って1ヶ月ほどなのに、こんなに自分のことを思ってくれているなんて―――


ちらりとひかりのほうを見る。ひかりは、さっきのように切なさを感じさせる笑みではなく――沙彩の心を後押しするように、心からの笑顔を浮かべていた。


なら、沙彩の返事は――


「……うん。用事がなかったら、ね」


沙彩は普段あまり見せない笑みを千春とひかりに向ける。

こんな楽しみ、1年生の頃に中学校に通っていたときにも味わってないよ――沙彩が誰にも聞こえないようにぼそりと呟いた。



○**○


「そうだ!夏音ちゃんや悠夜くん、俊くんも誘って良い?」
「悠………?あ、3組の学級委員長さんとその友達?」
「そうそう!その人たちと友達なんだけど、ひかりちゃんは良い…?」

ひかりは人見知りだ。ひかりは3組だが、同じ3組と言っても――殆ど喋らない。それにまだ1学期が終わったばかり、あまり仲も深まったわけではない。

「ん……まぁええけど」
「ほんと!?良かったー、大人数の方が楽しいと思うし!沙彩ちゃんは良い?」

できれば悠夜が居るのは気まずいからやめて欲しいのだが、今更そんなことを考えても仕方ない。沙彩はいいよ、と言っておいた。

「沙彩ちゃんは浴衣、あんの?うちは無いけど」
「そんな機会無いから持ってないに決まってるじゃない」
「なんかごめん…千春ちゃんと夏音ちゃんは持ってるんやろ?」
「うん、持ってるよ!どうせならひかりちゃんと沙彩ちゃん、浴衣買いに行けば?」


千春の一言に、沙彩とひかりは顔を見合わせた。