コメディ・ライト小説(新)

Re: 君との出会いは本屋さん。『コメ・オリキャラ募集中!』 ( No.99 )
日時: 2017/09/02 13:47
名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)

※この番外編は、沙彩が1年生の時の話です。
※過去の話になりますが、会話文は基本『』ではなく「」で表します。(この文章の中での過去の会話は『』で表します)
※ですので今とキャラが違うところがあるかもしれません、ご了承ください。


番外編『努力のベストスコア』



これは去年の話、沙彩が陸上部で頑張っていた頃――。


――今日は大会まであと3週間、タイム計測の日。
8コースあるレーンに沙彩たち1年生は並んでいた。沙彩は1コース。

用意した後、パンッとグラウンドに鳴り響く銃声に合わせ、沙彩たちがスタートを切る。その中でも、2人――ずば抜けて早いのが居た。


「5コース13秒47、1コース13秒56!……4コースは―――」

部長が計ったタイムを、ゴールを切った順に叫ぶように言う。

「―――よし、皆お疲れ。今年の1年生、ほんと早いね!特にひかりちゃんと沙彩ちゃんは期待できる存在だよ!」

全員がゴールした後、沙彩たちに向かってそう言う。

「ひかりちゃんは特に言うこと無し!フォームも良いし、大会出場できそうだから頑張って!それで、沙彩ちゃんはいつもギリギリでひかりちゃんに負けちゃうから……スタートダッシュは良いんだけど、ゴールの姿勢がちょっと悪いかな―――」

部長のそんな指摘に沙彩は聞こうとしても上の空になってしまう。……この当時、沙彩はひかりに毎回毎回負けていた。ひかりの実力ももちろん凄いものだが、それでも沙彩はいつも歯を噛みしめていた。



「――あんた、もうちょい頑張れるやろ?」

部長からゴールの姿勢を教わった後、休憩時間になりその姿勢を練習していると――突然、ひかりに声を掛けられた。それも、特に何も言ったわけでもないのに怒ったような顔をしている。

「本気出してないだけとちゃうん?あんた、ゴール前めっちゃ遅いし絶対手抜いてるやろ」
「はぁ…?本気でやってあれなんだから仕方ないじゃない」

思っても見なかったひかりの指摘に沙彩は反論する。遅いのは自分の姿勢などが問題であって、決して手を抜いてる訳ではない。

「嘘や!あんなんが本気の訳ないやろ!?」
「私が本当って言うんだから本当よ。何で貴女に怒られないといけないの?私は私で頑張ってるのよ」

第三者から見れば2人の温度差は圧倒的に違うが、普段そこまで感情的にはならない沙彩も目を鋭くしていた。

「……もうええわ」

ひかりはなぜか急に諦めたように、沙彩の前から立ち去って他の1年生のところへ行ってしまった。突然通り過ぎていった風に沙彩はぽかんと口を開けたままその後ろ姿を見ていた。

(何だったんだろ…)

部活にはこういうのが付きものだとは分かっているけれど、改めて自分に降りかかってくると嫌な気分になるものだ。沙彩は自分のタイム、13秒56という数字になぜか苛立ちを感じた。


○**○


時は流れ県大会当日――。1年生の中で2番目に速い沙彩は何とか出して貰えることが出来た。
今日は、地方大会に進めるかを決める大事な大会――。
ある程度の準備体操を行い、2時間後に行われる中学生女子の部に望む。



本気を出していないだけ――開会式が終わって、ふっとその言葉を思い出す。
あれから、沙彩は―――

(なら私の本気見せるわよ…!)

今までにない闘争心を燃やして、沙彩は密かに拳を固めていた。






――あれから沙彩は、必死に部長や顧問にフォームなどを学んだ。

『これは毎回言うけど、ゴールは5m先だと思って走り抜けて。あと、姿勢を直すのが早いから前傾姿勢を出来るだけ長く保った方が良いわよ』

『沙彩ちゃんはネガティブに走ってる感じがするかなー。自分は12秒で走れる!みたいに自信を持って走ると良いはずだよ』

顧問のかなりガチな指摘と、部長の精神的なアドバイス。沙彩はよし、と独り言のように呟いて控え室から退出した。





レーンに沙彩とひかり、他6人が並ぶ。沙彩たちはCグループ。ここで1位2位の2人が地方大会に出場できる。
軽くジャンプしたりアキレス腱を伸ばしたりで、指示されるまでの時間を過ごす。

沙彩は2コース、ひかりは6コースを走る。

なんだかひかりに睨まれている気はするが、集中力が切れるので前だけを見た。


するとその時、用意の指示が入る。いよいよ緊張の瞬間だ。
左膝をついてクラウチングスタートの構えを取る。

数秒間だけ、無音の時間が流れる。

その後―――パン、という強い音が響き渡った。





――風を切るような感覚が沙彩の身を包む。
前に誰が居るか、後ろに誰が居るか――人の存在を感じない、自分だけの空間にいるような気がした。

そのまま、沙彩はゴールまで顧問や部長に教わった姿勢で――自分は12秒で走れると思って――




「はぁ……っ!」

ゴールした瞬間、そのまま沙彩は倒れ込む。自分のタイムなど今は考える余裕もなかった。少し落ち着いてから、タイムを見る。


「13秒…22……?」

目を見開いたまま、そのタイムをじっと見つめた。視力がよい沙彩、見間違えるはずがない。

13秒22。3週間前より、0.3秒も早くなったのだ。


「や……やったぁ……」

思わずこぼれ落ちた歓喜の声。



「夕凪ひかり…13秒46…」

そう呟いたと同時に。ひかりが沙彩のもとへと早足でやってきた。



「………月島さんの本気、後ろで見ると思わんかったわ」


負けたけれど――ひかりはどこか、悔いのなさそうな顔で沙彩にそう言った。


「あ…あのさっ、名前で良いよ…」


今からしたら、相当な勇気だったと思う。沙彩は本能的にひかりに言っていた。

「……うん。ありがとう、沙彩ちゃん」






番外編end…