コメディ・ライト小説(新)

紙一重の世界 ( No.118 )
日時: 2018/01/08 10:49
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: XSwEN2Ip)

 キーンコーンカーンコーンとまた一つ退屈な授業が終わりました。今日は理科の実験。教室から遠く離れた理科室に移動して、アルコールランプに火を付けて色々実験する男の子に大人気の授業でした。わたしも理科はいち好きな方でした。大好きな動物たちの生態を学べたり、興味はあるけどあまり詳しくはなかった植物の事を学べるのは凄く楽しかったですし、化学なんて未知の世界だったので不思議発見! と言った感じで毎回わくわくで楽しかったです。小学生の頃の夢は科学者だったりしました。……数学が苦手だったので一時期の夢でしたけどね。
 今日は久々に有意義な一日でした。もしこの場に誰もいなかったらスキップでもしたいくらいです。もし誰もいないかったのなら……。

「アリスちゃん発見!」
「ねぇねぇー授業終わり?」
「アリスちゃんってばー!!」
「お~い、聞こえてますか~?」

 廊下を歩いていただけなのに、突然目の前に現れた男の子達に贈る感想それはまたかの三文字です。
今日はガキ大将のダイヤのキングはいないようです。いるのは知らないトランプ兵ばかり。あ……いえ一人だけ見知った顔が居ました。
きしし……と笑っている狐顔はキングの側近の一人である男の子です。なるほど。キングはお休みの時はあなたがリーダーに格上げになるんですね……ならなくていいのに。そのままお休みしていればいいのに……どうしてわざわざ、三百六十五日飽きずにわたしの前に現れるんですか? わたしなんかを相手にして何が楽しんですか? 訳が分からない。

「無視? わーアリスちゃんに無視されたー」

 嬉しそうに被害妄想が声をあげました。どちらが被害者だと思っているの? と聞き返してもみたかったですが、わたしにそんな勇気はないので今日も下を向いて俯せて、早歩きで自分の教室を目指します。見えるのは廊下の緑だけ。塞げない耳は周りの雑音でいっぱいいっぱい。もうたくさん、お腹いっぱいです。だからもうやめて……。

 バタンッ! 教室に着いたら逃げ込むように勢いよく入り込み引き戸を閉めました。勢いをつけすぎてかなり大きな音が出てしまいました。背後からクラスメイトたちの視線を感じます……恥ずかしい。引き戸の反対側からはまだ彼らの笑い声が聞こえます。早く諦めて自分の教室に帰って!! それが心からの願いです。でもそれを叶えてくれる神様も仏様もいないのです。

「アリスちゃん好きだぁぁぁあああ!!」

 外の地獄にいた嫌な男の子たちから逃げるために逃げ込んで来た、天国と思われた教室はただの地獄の延長線でしかありませんでした。

「ヒューヒュー」

 あおるクラスメイトたち。そして教室の中心で愛を叫ぶ、坊主頭の男の子。その見た目通り、あだ名は坊主。野球部のエースの子です。運動部に所属しているのに背はあまり高くなくてわたしと同じくらい。みんなが嫌がることを進んでやって引っ張っていくリーダータイプの男の子。あれ? どこかで同じ紹介をしたことがあるような……ああ、そっか。ダイヤのキングと同じタイプの子なんです。わたしが嫌いとするタイプの男の子です。空気を読まない発言、悪ふざけで言っているのは一目瞭然、それを引いてもわたしは自分より背の高い人が好きですし、坊主頭の人は極道をイメージさせるので怖いです。サッカー部の人に昔虐められたことがあるので、ついでに野球部も大嫌いです。

――だからごめんなさい。わたしなりに頑張って丁重にお断りしたはずでした。なのに……。