コメディ・ライト小説(新)
- その二十四「図書室の主」 ( No.87 )
- 日時: 2017/10/23 10:52
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: C/YHgPFP)
昔々のお話。
辺境の古城に とても美しいと評判のお姫様が住んでおりました。
その評判を聞きつけ たくさんの殿方が 求婚に訪れましたが
城は囲むは堅固な城壁
誰も城内に 足を踏み入れることはできません。
殿方たちは 次々と城壁を超えに挑み そして敗れ去っていきます。
しかし 城を訪れる者の数は 一向に減りませんでした。
『この苦戦を越えた者が 絶世の美女と結ばれる』
そんなうわさが 国中にひろがり
我こそは 美女を射止めんという殿方が 後を絶たなかったのです。
さて……
挑戦者でにぎわう城壁の内側では
とうの お姫様が 頭を抱えておりました。
「ああ なぜこんなことに……」
誰かの些細ないたずらと 放置してうわさが 独り歩き。
膨らみに膨らんだ
彼女の評判は 現実の彼女とは かけ離れたものと なっていたのです。
「そりゃ確かに……このうわさをきっかけに殿方との出会いがあって……
男性への苦手意識を 克服できればなんて思いもしらけれど……
絶世の美女なんて 実際のわたしと違いすぎるよぉ……」
うわさの美女の正体は 内気で恥ずかしがりやな 普通の女の子だったのです。
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「ふう……」と一息ついて左手に握っていたシャープペンシルをころりと床へ転がした。本来は授業で頭を使いつかれた体を休ませるためにある休み時間の全てを使っての執筆活動はやはり少々体に堪えるな。
……でも視線を机に広げられたキャンパスノートにうつせば、物語がびっしりとノート一面に書かれている。これを見ると達成感が感じられ、嬉しい気持ちになる。
私の名は青龍院 幽真。男みたいな、名前だと? ああそうだろうな、家の跡継ぎとなれる男が欲しかった両親がつけた名だからな。……女の私なんかいらないのだとさ。
すーと息を吸い込めば、埃とかびの匂いが一緒に吸い込まれる。普通なら嫌な臭いだが、私にとっては古い本のいい香りだ。
此処は学校の図書室、生徒達が普段利用する一般エリアからさらに奥深くに位置する、古い本、または歴史的に貴重な本を保管しているエリア、普段誰も立ち入らないようなエリア。……私の根城とも言っていいかもしれない。
窓はなく切れかけた電球の灯りと持参した懐中電灯の灯りしかない薄暗い部屋。でもその方が読書や執筆活動に集中出来て丁度いい。
思えば私は記憶の始まりから本を読んでいるような気がする。物心ついた頃からとでもいえばいいか、気づけばずっと、365日毎日ずっとなにか本を読んでいたような気がする。
幼い子供が読んいる本と言えば、君はなにを思い浮かべる? やはり絵本? それとも自分で読むのではなく、読み聞かせや紙芝居などか?
私はそのどれも違った。絵本というものを知ったのは妹が生まれてからだ。私にはそんな玩具と呼ばれるものは買い与えられなかった。
男の子が欲しかった両親と生まれつき病弱で入退院を繰り返していた私。当然親からの扱いは良くない。女の身体でも、病弱な身体でも、青龍院の跡継ぎとして相応しい者になれるようにと、物心がつく前から勉強の毎日だ。一般的な他の子供のように遊ぶことは許されない。
「何時如何なる時でも青龍院財閥の人間として恥ずかしくない者でありなさい」それが両親の口癖。365日毎日きかされた、それは今でも変わらない。ずっとだ。
娯楽を知らない私が日々積もり重なるストレスというものを発散させるために選んだのは、本だった。元々両親が大の本好きで、広い家には何万冊という本が収納されている……らしい。誰も数えたことがないので、詳しい数は知らないがな。
目の前にある沢山の本。字ばかりで挿絵も難しい漢字にふり仮名もない分厚い大人の本。漫画しか読まないと宣言している妹は見ただけで嫌そうな顔をする。
私はこの本の中にはどんな物語が書かれているのか、楽しみで仕方ないけどな。姉妹なのに大きな違いだろう。私と妹は正反対の性格をしているらしい。まあ、それは追々機会があれば話すとしよう。
今日は私の話で勘弁いただきたい。……いや、私の好きな本の話で、だったな。
本に囲まれて育った私は自然と本の世界に惹かれのめり込み、やがて自分でも物語を書くようになっていった、冒頭部分で書かれている物語はその一部だ。
将来は立派な青龍院の跡継ぎに、青龍院の人間として恥の無いようにと育ててくれた両親には悪いが、今の私の将来の夢は小説家。このまま文学の道を究めるみたいと思っている。だって青龍院には、私なんかよりも立派で優秀な跡継ぎ候補がいるのだから……な。
「ふう……」ともう一度、息をついたところで休憩は終わりだ。
腕にスマホの画面を見れば時刻は17時30分。完全下校時間が18時だから、まだ30分は余裕があるな。ではあと30分だけ……書こうとシャープペンシルを握り直した時だった、あの五月蠅い悪魔共が私の根城を汚しにやって来たのは、
「なにここ、りっちゃんっカビクサッ!?」
「ちょっと千代紙さんっ、図書室ではお静かに!!」
注意している貴様の声が一番五月蠅い。
大和撫子とでもいうのか艶やかな黒髪を伸ばし四角い眼鏡をかけた委員長タイプの女と、阿呆を絵に描いたような顔な橙色の伸ばした髪を2つにわけて結んでいる女、2名が私の根城に侵入してきたようだ。
……なんの用があって? ここは一般的生徒の……立入禁止ではないが、先生でも滅多に近寄らない場所だぞ。
- その二十四「図書室の主」 ( No.88 )
- 日時: 2017/10/24 14:54
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: dpACesQW)
女2名は私がエリア中央付近に位置する長机が均等的に並べられたスぺース……自習スペースとでもいうのか、そこから見られていることもつい知らず奥の方へと入って行く。
別に興味などなかったが、今度書く話のネタにでもなりそうだったので観察してみることにしてみた。……委員長タイプの女と阿呆女、組み合わせとしては面白くもない――事件の香りがする。推理小説はかなり好きなジャンルだ。
「はぁ。なんでよりによって千代紙さんなんかと……」
1人大きくため息をつく委員長。
「世界史の授業で2人1組に分かれて、何でもいいからひとつテーマを決めて2週間後にみんなの前で発表するという内容で、どーしてアホの千代紙さんなんかと……組まなけれならなくなったのですか……とほほ」
委員長タイプはこちらが狙う狙わないに拘わらず、勝手に本人自ら説明してくれるから手間が省けて大いに助からる。委員長はその後も、1人で淡々と語る。
「先生が要したくじ引きで決めた組み合わせ。
箱の中に入れた紙を引いて、書かれていた番号が同じだった人同士で組むだけのこと」
よくあるグループ分け方法だな。つまらない。そこの話は大いにつまらないな。省いてもいいぞ。
「――だったのにっ、きっと、いえたぶん、絶対に私が引いたあの紙は最藤くんと同じ数字が書かれていた、はず! そこに間違いはなかったのです! おばあちゃんの名にかけて!」
……急に声を荒げてきたな、図書室では静かに願いたいものなのだけど。あと何故自身の主張が間違いでないことを主張するために祖母の名を出してくる? 関係ないだろう、今は。
「なのにーーーーあのアホォォォォォ」
悔しそうな顔して歯を噛みしめ阿呆女を震える拳を押さえ見つめる委員長は手振り見振りでその時の出来事を再現する。本当に良く出来た委員長だ。
「最藤くんと同じ班になれますようにって近所にある神社にお百度参りしたんだからきっと大丈夫よ」
これはクジを引くときのシーンの再現か。……近所にある神社か。この近辺にある神社はみな勉学の神ばかりなのだが、そこらへんは気にしなかったのか。いやそもそも勉学の神に恋愛成就を祈ったところで効果はあったのか。
私の頭の中では色々な考えが巡っていたが……まあそんなことは委員長には関係ない話だ。気にせず、私が見ている事なんで知りもせず、委員長は再現を続ける。
「おばあちゃんがくじ引き必勝法は手に当たった紙を取ること! と、言っていたから私もそうしました」
諸説あるけど、な。
「取った紙は折れ曲がっていたので良く見えなかったですが……きっとあれは最藤くんと同じ3だったはずでした。間違いありません」
随分とまあ自信満々な話だ。
「なのに!! 千代紙さんが後ろからぶつかって来るからっ!!」
つまりはこうゆうことか。その最藤とかいう意中の男子と同じ組になれるかもしれなかったのに、阿呆女に邪魔され引いた紙は他の者手に渡り、もう一度くじ引きをする羽目になり、その結果が今に至ると、そうゆうことか?
「ウキャー」と猿山にいる猿のように喚き散らす委員長。五月蠅い眼鏡猿だ。いい加減黙らせるか。何故女達が私の根城に侵入して来た理由は分かった。もう良い、これ以上私の根城を汚されるのは好まない、ご退場願おうか、委員長と阿呆女2人まとめて――待て。
私はここで初めて自分の愚かさに気がつかされた。
ずっと私は委員長の1人芝居を見ていた。今後書く物語に活かせるかもしれないからと、観察していたのだ委員長の1人芝居を、だ。
「阿呆女は何処に――「ねぇーねぇー、古城のお姫様はこの後、どーなるの♪」貴様ッ」
遅かった。気が付いた時には、振り返った時には、もう遅かった。
いつの間に私の背後を取っていた、阿呆女は分厚い本で作った山の中に隠していたはずの薄っぺらいノートをペラペラめくり中に書かれている、創作の物語を読んでいたのだ。
大きな瞳の中にある星を輝かせ、それはまるで初めて物語を読んだ幼子のような無邪気な瞳。
「千代紙さんっ、貴方どこに……あら? 先客がいたのですね」
ちっ。委員長まで集まって来た。しかも阿呆女が「見てみてー、りっちゃんっ」と委員長にもノートの中身を見せている。
委員長はノートの中身を真剣な眼差しで見つめ、全て読み終わったのだろうノートを閉じ真っ直な瞳で私を見つめ
「貴方、生徒会に興味ない?」
「……は?」
見られたという恥ずかしさと、苛立ちで、怒りの火山が噴火寸前だった、投げかけられた一言「生徒会に興味がないか」だと? そんなのっ!!
「あるわけないだろ!それは私の小説だッ! 見るなッ! 返せッ!」
「ぁ」
私は委員長からノートを奪い返した。無理やり奪い取ったせいで、ノートが少し破れてしまったではないか……また新しいのを買わないと……。
「あー!! 思い出した!!」
「ッ。今度はなんだっ」
突然大きな声を上げた、阿呆女を睨み付ける。だがそんなのはこの女に全くといっていいほどに効果はないようだ。女は私に構わずあのクラスのうざい女共みたいに抱き付き、
「温泉旅行の時に出会った観光客の人だよー♪」
「はぁ? なにをッ言って! 放せ馬鹿!!」
「ゴフゥゥゥゥウウ!!!!」「---------ッ!!?」
抱き付いてきた阿呆女を必殺右ストレートで殴り飛ばし、その場から逃げ出した。
……あ。よく考えたら、後からやって来たのは阿呆女と委員長なのだから何故私の方が出て行かねばならなかったのだ?
ちっ。そう考えるとよけいに腹立たしい……。
「生徒会に興味があるか……か」
あの委員長が言っていた言葉を思い出し口に出してみた。
生徒会なんぞにこれっぽっちも興味などない。むしろ壊滅すればいい。あんな組織。
「――だが今後の創作活動に役に立つネタが入るかもしれない」
あの女2名に復讐できるチャンスが得られるというのなら考えてみる価値はあるかもしれない。
少しだけ真剣に考えてみるか、どうかを考えてみるか。
校門を出たところで全員強制下校するようにとのアナウンスが校内に流れているのが聞こえた、空が紅く染まった夕暮れの出来事。