コメディ・ライト小説(新)

その二十五「たまには泣きたいよ」 ( No.90 )
日時: 2017/10/24 15:58
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: dpACesQW)

昔々と言ってそこまでは昔じゃないかも、いや割と最近3日くらい前のお話。
ホニャララ高校には昔からでもないか、3年くらい前から鬼がこの高校の生徒として、登下校していたのさ。
その鬼の名前は玄武げんぶ いわお 身長190センチ越えのまさに岩みたいな雄の人間……あっ、鬼であってね。
巌くんは鬼だけどとても優しい心の持ち主なんだよ。
アスファルトに咲くお花を見るとツゥーと涙を流してしまったり、迷子になっている子供がいたら「大丈夫?」と優しく声をかけてあげて「ぎゃあああ」と叫ばれておまわりさんを呼ばれてちょっとした警察沙汰になってツゥーと涙を流してしまうくらいに、心優しい鬼さんなのさ。 
巌くんは、人間たちともっと仲良くしたいと考えて、学校でのお家、別名生徒会室に
「心のやさしい鬼のうちです。
 どなたでもおいでください。
 おいしいお菓子がございます。
 お茶も沸かしてございます」
と、書いた看板を立てたんだ。けれどもね、人間たちときたらさ、
「生徒会室に……美味しいお茶とお菓子?」
「もしかして毒でも盛られてるんじゃない」
「口が軽くなる薬とか?」
「「「きゃーーーー」」」
疑って誰一人遊びに来てくれなかったのさ。
巌くんは悲しみ、信用してもらえないことをくやしがり、おしまいには腹を立てて、立て札を粉々に壊してしまったんだ。
怒り悲しむ巌くん。そこへ鬼のリーダー、りっちゃんが訪ねて来たよ。
「どうしたんですか、玄武さん。生徒会室の前で立ち尽くしたりして……通行の邪魔ですよ」
「会長……」
巌くんはこれまであったことをりっちゃんに説明したよ。りっちゃんはうんうんと静かに巌くんの話を聞いてくれてね、こんな提案をしたのさ。
りっちゃんが学校で一番の悪い不良グループに喧嘩を吹っかけ、襲われそうになったとこで巌くんが懲らしめて返り討ちにする。
これで巌くんは可愛い女の子を救ったヒーローさ。悪い不良グループを成敗したみんなの英雄さ。
そうすれば、他の人たちにも玄武さんがやさしい人だということが解ってもらえますよ、とりっちゃんは言うんだ。
でもそれだと、危険な目に合わせるりっちゃんに申し訳ない、としぶる巌くんを、りっちゃんは、無理やり引っ張って、校舎裏の不良グループのたまり場に連れて行ったよ。大丈夫かな?
「あん。なんだ、テメェら」
今日たむろしていた不良グループは頭にフランスパンをのっけた一昔前の不良を意識した男の子だったよ。「あんあん」うるさい子だったよ。
ガチムチ系で大きな岩のようなムキムキの体をしている巌くん。でもそれは見かけ倒しなのさ、だって彼は生まれてこの方、一度だっても、喧嘩なんてしたことないのだからね。
当然、負けるよね。一撃必殺で負けるよね。ボス戦前のザコ戦闘でね。
この計画を立てたりっちゃんも予想外の展開過ぎて唖然さ。逆にどーしようってさ、自分の身を護る方法考えないといけない状況だよ、これ、どーすんのかね。
「なにしてるんですか~会長さん?」
「貴方は!?」
「あ、兄貴!!」
不良グループの兄貴さんのご登場さ、猫みたいな見た目の男の子だったよ。彼は地面に倒れて伸びている巌くんを見てさ、
「帰りますか」
と、鶴の一声。この状況は何とかなったよ。
でもうわさというのはこわいね、だってね、これを何処かから見ていた新聞部の子がさ、
「号外! 号外! 
 生徒会室に住む、鬼瓦さんが番長を一撃で撃沈させたってさ!!
 番長は涙目! 返り血で体を真っ赤に染めた鬼瓦さんは次なる獲物を探して今日も校内を彷徨い歩く、もし彼と出会ってしまたら最期――キャアアアアア!!!」
なんて記事を校内中に張り出したもんで、生徒皆に配ったもんで、晴れて巌くんは学校の七不思議のひとつ「血を求め彷徨う赤鬼」になってみんなの仲間入りを果たしたそうだよ。



――泣いてもいいじゃない。赤鬼さんだって。