コメディ・ライト小説(新)
- その二十七「エスプレッソは ほろ苦い」 ( No.93 )
- 日時: 2017/10/30 09:12
- 名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: Tm1lqrhS)
+メッシー優勝おめでとトロフィー代わりの小話第一弾+
10月も後半戦に入って一番のお祭りハロウィンの仮装大会がまじかに迫ったある日のこと。
商店街はカボチャやオバケといったハロウィングッズ一色に染まり、道行く住人達も皆浮足立って、華麗なスキップを披露したり、鼻歌を歌ったりと陽気だというのにそんなのなんて全く、眼中にもない、気にもしないという、変な少年少女のお話である。
「ずいぶんと失礼な紹介のされかたですね~」
と不満げに毒づく少年は飯野大和という。猫みたいな瞳に小柄な体系が可愛いと女子達の間では大人気だ。
……本当は只の腹黒い不良のボスなのだが。それは言わない約束、言ってしまうと我らに明日はないだろう。
「そう? 僕は気にならないかな」
首を傾げる緑色の髪と瞳そして常に被っているフードが印象的な少女は緑屋詩緒という。
……この世界ではメインヒロインではないかと噂されているとか、いないとか、なってほしいなと妄想したりなんて。
「緑さんは優しいですね~」
これは大和だけが呼ぶ、詩緒の独特なあだ名。本人曰く相手をナチュラルにディスるためのものらしい。
腹の中が真っ黒な彼らしい理由だが、別に詩緒が嫌いとかそうゆうことではないらしい。むしろどちらかというと好意はもっている方らしい。
「大和殿程ではないよ」
それはお世辞ですか? と誰かの代わりに聞きたいものだ。
この○○殿という呼び方は詩緒は敬意ある人を呼ぶときに使われるものだ。大和のなにを、どこを、敬意に値すると判断したのか実に興味深い話だ。今度じっくり尋問でもしてみようか?
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
おっといけない店員が来てしまった。
二人を紹介するのですっかり忘れてしまっていたが、今彼らがゆったりと腰を下ろしているのはファミレスのソファータイプの椅子だ。ふかふかで背もたれも中々心地よい……ではなく、水一杯で居座るのは店側に失礼だ。なにか一つだけでも注文しなくては、と、メニューを広げた二人が頼んだ物は、
「僕は~モンブランで~、緑さんは」
「僕はエスプレッソを」
「モンブランとエスプレッソ、お一つずつですね。かしこまりました。少々お待ちください」
ふりふりのオレンジ色のミニスカートメイド服が可愛い店員さんは三十度くらいに頭を下げて、厨房の奥へと消えて行った。後ろ姿も可愛いな、腰にある大きなリボンがふりふわ揺れて可愛いのだ。
今日は平日だからだろうか、夕暮れ時なのにお客さんはあまりいないようだ。いるのは大和と詩緒そして
”ガサガササ”
席と席を隔てる為に植えられた観賞用植物を先程から定期的に揺らし鳴らす、後から入って来たお客さんくらいか。……とゆうよりこの客はなにがしたいのだろう。数分起きにまるで嫌がらせのように、草がガサガサ鳴らされるのだ。揺れる草を背にしている、詩緒はなんとも思わないのだろうか。そして詩緒と向かい合って座る、大和はなにも見ていないのだろうか。……気になるところだ。
「あれ緑さん食べないんですか~飲み物だけですか」
「うん。甘いものはあまり……ね」
「へぇ~女の人はみなさん無条件に甘い物が好きなんだとばかり~」
「僕のほうも意外かな。男の人って甘い物はあまり好きじゃないと思ってたから」
「それは差別ですよ~僕は甘い物が一番好きなんですから~」
「そうなんだ。てっきり大和殿は辛い物が好きなのかと」
「辛いのは駄目です。カレーは甘口ですよ~」
「へぇー僕は逆に辛口かな」
優等生と不良の会話は驚きの連続だ。
優等生で先生からも後輩からも信頼の厚い詩緒は甘い物が苦手、辛い物や苦い物が好きで一般女子とは味覚が合わないかもと悩んだ時期があったそうだ。
不良なのに要領よく世渡り上手な大和は沢山の舎弟を従え、大好物のジェラートなんかを献上させているらしい。逆に辛い物は大の苦手でピーマンなどは未だに食べられないお子様タイプ。
立場も性格もなにもかも違うように見える二人だが意外なところで共通点などがあったりする。
「そういえばまさか本屋で緑さんと出会うなんて思ってませんでしたよ~」
「そうだね。しかも同じ本を手に取るなんてね、驚きだね」
待ち合わせをしてファミレスに来たわけじゃない二人。
ここに来る前。海賊王の新刊(87巻2017/11/2発売! 宜しくね)を買いに本屋に寄ったところで運命的に出会ったのだ――いや大和は下級生が予約していた海賊王を横取りしようとしただけだが。
「やぁ君も?」「そうなんだ。じゃあお茶でも」「海賊王の話でも」みたいな流れで、ファミレスに入り今に至るというわけだ。話が二転三転してしまうのは我々の悪い癖だな、全く。
「大和殿は毎回買っているの?」
「ええ。そうですよ~」
嘘だ。こいつ今嘘をつきましたよ奥さん。平気の平左衛門だよ。
本当に毎回買っているのは下級生の方、大和はそれを毎回横取り、からの返却しているだけだ。
「凄いね。僕は最近やっと全巻揃えたところだよ。今はアラバスタ王国のところ」
「クロコダイルですね~懐かしい。僕はエネルの方が好きですが~」
「鷹の目もいいな」
「女性人気高いですもんね~。僕は~赤髪派ですけどね~」
好きな敵キャラクターで盛り上がり
「麦わらの一味だと誰ですか~」
「やっぱりマリモかな」
「王道ですね~僕は狸です」
「映画にもなった子だよね。王様にもなったりして」
「古い映画も見ているんですか?」
「うん。最近ア●ゾンで買い集めてるんだ」
これは実話であったりもする。我々ではなくお上だが、集めているのは。
「週刊誌は読んでる? 僕はそっちまではお金が……」
「僕もですよ~。あちらはたまにコンビニで立ち読みするくらいですね~。カタクリさんが気になります」
これも実話だったり……。
「……大和殿」
急に俯き重たく話し出した詩緒。どうしたのだ、この楽しげの会話の中に何があった。何が君をそんなに悲しませ苛立たせたのだ。
「僕はずっと思う事があるんだ」
詳しく言うとマリンフォード編の話の事だ。ここからは完全に我々の個人的な話である。
周りに議論する相手がいないためずっと内に隠しため込んでいた話である。
「なんで尾田先生は火拳を殺したの?」
ずっと考えていた。当時中学生だった我々。
アニメ派だった我々はこの先どうなるのだろうと毎週楽しみにして見ていたのだ。主人公の兄である火拳をそうな簡単に殺すわけない、だって兄だし、我々が海賊王で一番好きな登場人物なのだ、殺られてたまるかって話なのだ――なのに。
「なんで尾田先生は火拳を殺したの?」
週刊誌派だったクラスメイトに火拳死ぬんだよなーと軽く、映画館ですれ違いざまに見たお客さんからネタバレされた並みのショックである。
なにしてくれとんじゃいっと、もうアニメ楽しくないぞ、どんな超展開が起きても、どうせ死ぬんでしょ、と片付けられてしまうぞ、どーしてくれるのだこの気持ち!
「物語的にその方が面白いからじゃないですか~。
次にあった、大長編のドレスローザ編の話で結構盛り上がったじゃないですか?」
「でもね……大和殿」
もう一人のお兄さんの復活したのは良かったかもしれない。生きていることは最初から分かっていたから驚きもなにもないさ。で・も・ね?
悪魔の実はお一人様お一つまでルールがあり、一つ食べたらもうない、でも持ち主が死んだら悪魔の実復活システム、アカン!
「復活説すっごく信じてたのに! ゲームじゃ普通に生きているのに!!」
メラメラの実出て来ちゃったらもうだめじゃん。復活ないじゃん。
意思とか引き継がなくていいからっ、火拳を復活させてくれ、頼むから、参百円あげるから。
「はぁ…はぁ…」と興奮して荒げてしまった息を整える。丁度空気を読んだかのように、あの可愛い店員さんがエスプレッソとモンブランを運んで来てくれた。ぐびっと一杯。
「……苦い」
エスプレッソは一気飲みするものではなかった。口いっぱいに苦い味がする。顔が歪む。
「そんなの一気に飲むからですよ~緑さんはドジっ子さんですね~」
クスクスと笑っている大和だったが、フォークで一口サイズにモンブランをカットして「あ~ん」と詩緒の口元へ運ぶ。「ちょっと」周りの目を気にし恥ずかしがって一度は断る詩緒だったが、そんなのお構いなしに「あ~ん」し続ける大和に根負けしてパクリと一口。
”ガサガササ!!!”
また大きく草が揺れる音が聞こえたが、まあ、そんなのは気にせず、
「……美味しい」
「でしょう? でもこのエスプレッソは苦くて不味いですね」
「え?」
気が付いた時にはもう遅かった。もう既に詩緒のエスプレッソを大和が一口飲んだ後だった。「お口直し~」とフォークでモンブランを一口サイズにカットして口に放り込む、
「大和殿っカンセツ」
「ん~~~おいしい」
大和はカンセツチッスというものを全く気にしないタイプの人間のようだ。年頃の乙女にとっては傍迷惑なタイプ、なのだが別に大和に対してそうゆう感情を抱いているわけじゃない詩緒は「ま、いっか」と納得してエスプレッソを一口ゴクリ。
いいんかいっ!! と、ツッコミを入れたくなるが二人がいいと、言うのならいいのだろう、うん。
詩緒の後ろから凄く黒いオーラが放たれているような気もするが、二人が気にしないのなら我々も気にしないでおくとしよう。
その後も海賊王の話で盛り上がった二人。時間はあっという間に過ぎ去っていって帰る時間だ。お会計を済ませファミレスを出たところで、
「今日は良い一日になったよ。ありがとう大和殿」
「こちらこそ有意義な一日をどうもありがとうございます~」
「「じゃあ」」
二人は笑顔で手を振り別れ、大和は去って行く詩緒の背中が完全に見えなくなるまで見つめ、
「盗み聞きとはいい趣味をお持ちですね~」
”ビクッ!!!”
振り向かずに背後にある電信柱の後ろに隠れている人物に向けて言い放った。その人物とは――?
To be continue……